1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「研究開発のマネジメント」です。 インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
・経営計画と経営管理
・企業戦略
・成長戦略
・経営資源戦略
・競争戦略
・技術経営(MOT)
・国際経営(グローバル戦略)
・企業の社会的責任(CSR)
・その他経営戦略論に関する事項
【組織論】
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- 基礎研究、応用研究、開発研究
- 魔の川(デビルリバー)、死の谷(デスバレー)、ダーウィンの海
- 貸与図方式、委託図方式、承認図方式
- リーンスタートアップ、ステージゲート管理
- デザインイン、フロントローディング、コンカレントエンジニアリング
- バウンダリー・スパニング(渉外担当者)
- リバースエンジニアリング
- NIH症候群、Jカーブ効果
研究開発の分類
技術経営(MOT)を行う上で、研究開発は非常に重要です。
研究開発には「基礎研究」「応用研究」「開発研究」があり、順番を意識して理解しておきましょう。
研究開発の分類
- 基礎研究
- 用途を考えずに、新しい知識を得るために行われる理論的または実験的な研究
- 応用研究
- 基礎研究によって発見された知識等を利用して、実用化の可能性を確かめる研究、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究
- 開発研究
- 基礎研究、応用研究、実際の経験から得た知識を利用して、新製品開発・既存製品の改良・新システムの開発など行う研究
研究開発~事業化における障壁
研究開発を行って、新製品・サービスを事業化するには、いくつかの障壁を乗り越える必要があります。
代表的な障壁には「魔の川(デビルリバー)」「死の谷(デスバレー)」「ダーウィンの海」があります。
研究開発~事業化における障壁
- 魔の川(デビルリバー)
- 基礎研究から応用研究における障壁。価値創造の壁
- 技術力の向上や産学連携(TLO)により、価値創造しやすい環境を作る
- 死の谷(デスバレー)
- 応用研究から製品化における障壁。価値伝達の壁
- マーケティング力強化や産学連携、休眠技術の活用が大事
- ベンチャーキャピタル、ビジネスエンジェル、スイートマネー(自分自身や友人、家族からの出資)などからの資金調達で乗り越える
- ダーウィンの海
- 製品化から事業化における障壁。価値変換の壁
- マーケティング力強化やアライアンス、ライセンス活用、継続的なコスト削減で乗り越える
試験対策として、3つの順番とそれぞれの対応策を理解しておきましょう。
外注調達品の開発・管理方式
企業が研究開発や製品開発を行う際には、どこまでを自社で実施し、どこまでをサプライヤーに依頼するかを検討することが必要です。
管理方式には「貸与図方式」「委託図方式」「承認図方式」の3種類があります。
製造するのはサプライヤーで共通ですが、「設計」「図面の所有権」「部品の品質保証責任」で、メーカーとサプライヤーで範囲が異なります。
貸与図方式とは、設計はメーカーで行い(図面の所有権、部品の品質保証責任もメーカー)、製造だけをサプライヤーに依頼する方式です。これはイメージしやすいですね。
一方、委託図方式と承認図方式は「図面の所有権」「部品の品質保証責任」で分かれます。
委託図方式、承認図方式ともに、サプライヤーが「設計」を行いますが、委託図方式は「図面の所有権、部品の品質保証責任はメーカー」、承認図方式は「図面の所有権、はサプライヤー」が持ちます。
承認図方式に行くほど、サプライヤーの責任が大きくなっていきますので、合わせて理解しておきましょう。
研究開発・製品開発の関連キーワード
最後に、研究開発・製品開発の関連キーワードをチェックしておきましょう。ざっくり3つの視点で理解しておくと、覚えやすくなります。
リーンスタートアップ
リーンスタートアップとは「コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応をもとに、より満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法」です。
具体的には、以下を短期間に繰り返します。
リーンスタートアップの流れ
- 構築
- 新製品やサービスの仮説を構築し、最小限のコストで試作品(MVP:Minimum Viable Product)を開発する
- 計測
- MVPを顧客に提供して反応を見る
- 学習
- 顧客の反応や意見をもとにMVPを改良する。もし、仮説が誤りだと分かったら、すぐに方向転換(ピボット)する
ステージゲート管理
ステージゲート管理とは「開発プロセスを複数のステージに分割し、次のステージに進む要件が満たしているかを評価する「ゲート」を設ける管理方式」をいいます。
例えば、アイデアスクリーニング、開発、消費者テストなどでゲートを設けることが多いです。
社内ベンチャー
社内ベンチャーとは「新事業を創出するために、企業内に作られる独立的運営組織」をいいます。
社内ベンチャーのメリット
- 社員の創造性を喚起できる
- 優秀な社員の流出を防止できる
- 新しい領域での学習の場を提供できる
- 既存事業とは異なる分野への進出がしやすくなる
デザインイン
デザインインとは「発注側が製品開発の段階から部品メーカーと共同・連携しながら製品開発を行うこと」をいいます。
フロントローディング
フロントローディングとは「工程の序盤に、集中的に資源を投入することで完成度を高め、後工程の負荷を軽減すること」をいいます。
前工程で頑張って多くの問題を解決しましょうということです。
コンカレントエンジニアリング
コンカレントエンジニアリングとは「設計から製造の複数の段階を同時並行的に処理することで、生産までの開発プロセスを短期化する開発手法」をいいます。
結果的に、コスト削減にもつながります。
バウンダリー・スパンニング(渉外担当者)
バウンダリー・スパンニングとは「組織の内側と外側の境界線を連結する(橋渡しする)機能・活動」をいいます。
組織内(自社内)では、研究開発資金を獲得したり、他部門の情報収集・交流などがあります。一方、組織外(自社外)では、顧客情報や技術の情報収集、外部組織との連携促進などの役割を担います。
リバースエンジニアリング
リバースエンジニアリングとは「製品を分解するなどして、製品の構造を分析し、製造方法や構成部品、動作やソースコードなどの技術情報を調査する開発手法」をいいます。
技術ノウハウを獲得したり、自社製品との互換性を確保したりする目的で利用されたりします。
NIH症候群
NIH症候群とは「すでに存在する製品やアイデア、研究や知識などを、外部の組織が発祥であることを理由に採用を避けたり、軽視したりすること」をいいます。
NIHとはNot Invented Hereの略で、ここで発明されていないもの(=他人が作ったもの)を否定する意味になります。
つまり、自分が考えたものが一番良いと考える思考で、自前主義とも言われます。
Jカーブ効果
Jカーブ効果とは「短期的には、最終的に予想される変化とは逆方向に変化する現象」をいいます。
一般的には、為替市場で出てくる用語です。
技術経営では、ベンチャー企業が順調に成長すると、最終的にはキャッシュフローが累積・増加していくものの、開発段階では、製品開発や生産、販売に資金が必要となるため、キャッシュアウトのほうが大きくなることを説明する文脈で登場します。
【過去問】平成30年度 第12問(研究開発)
問題
Q.技術開発型ベンチャー企業が起業から事業展開で直面する障壁には、通常、以下の【A欄】にあるダーウィンの海、デビルリバー(魔の川)、デスバレー(死の谷)と呼ばれるものがある。これらの障壁は【B欄】のように説明できるが、その回避には【C欄】に例示したような対応策が求められる。
【A欄】のa〜cに示された障壁名、【B欄】の①〜③に示された障壁の内容、【C欄】のⅰ〜ⅲに示された対応策の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
【A 障壁名】
a ダーウィンの海
b デビルリバー
c デスバレー
【B 障壁の内容】
① 応用研究と商品開発ないし事業化との間に存在する資金や人材の不足などという障壁
② 開発商品を事業化して軌道に乗せる際、既存商品や他企業との激烈な競争に直面するという障壁
③ 技術シーズ志向の研究のような基礎研究からニーズ志向の応用(開発)研究に至る際の障壁
【C 対応策】
ⅰ 大手企業とのアライアンスやファブレス生産に取り組み、生産、販売、マーケティング、アフターサービスが一体となった体制などによって回避を試みる。
ⅱ 基礎技術や高い要素技術を必要とする領域は大学に任せ、TLO を活用して連携を積極的に行うことなどによって回避を試みる。
ⅲ 所有している特許権や意匠権などの知的所有権のうち、一部の専用実施権を第三者企業に付与することや、社内プロジェクトメンバーについての担当の入れ替え、メンバーの権限付与の見直しなどによって回避を試みる。
〔解答群〕
ア a-①-ⅱ b-②-ⅲ c-③-ⅰ
イ a-②-ⅰ b-③-ⅱ c-①-ⅲ
ウ a-②-ⅲ b-①-ⅱ c-③-ⅰ
エ a-③-ⅱ b-①-ⅰ c-②-ⅲ
オ a-③-ⅲ b-②-ⅰ c-①-ⅱ
解答・解説
正解:イ
デビルリバー、デスバレー、ダーウィンの海に関する基本的な設問です。障壁名・内容・対応策を連動させて覚えておきましょう。本設問はダーウィンの海が事業化の段階と理解できていれば正解できます。
【過去問】平成26年度 第9問(研究開発)
問題
Q.研究開発に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【ア】
基礎研究から生み出された技術が成功するためには、その技術に基づく製品が市場で勝ち抜くことを阻む「死の谷」と呼ばれる断絶を克服しなければならない。
【イ】
自社の技術だけで最終製品が生まれることはまれであり、関連する技術領域を幅広く動員する技術の統合能力が製品開発には必要である。
【ウ】
市場ニーズをくみ上げて技術開発を進めるには、研究開発要員が日常的に市場との対話の機会を持ったり、営業部門や生産部門との連携を保つことが重要である。
【エ】
新規な技術が生まれにくくなるにつれて、顧客の感性に訴えるデザインや利便性あるいは顧客の課題解決提案などの新たな視点による製品開発の例も生まれている。
【オ】
模倣は、研究開発投資のコストや時間を節約できるばかりでなく、先発企業の市場開拓に追随すればよいので、マーケティング・コストの負担も軽減できる可能性が高い。
解答・解説
正解:ア
ア:不適切。製品が市場で勝ち抜くことを阻むのは「死の谷」ではなく、「ダーウィンの海」であるため、不適切です。
イ:適切。常識的に考えて、関連する技術領域を幅広く動員する技術の統合能力が必要であるため、適切です。
ウ:適切。市場ニーズをくみ上げるためには、顧客や川下からの情報収集が重要であるため、適切です。
エ:適切。技術(≒機能)で差がつかない場合、感性(デザイン)や利便性、課題解決提案などで差別化を図る必要があるため、不適切です。
オ:適切。後発企業の模倣は、先発企業のような市場開拓費用が不要になるため、適切です。
【過去問】平成30年度 第7問(外注調達品の開発・管理方式)
問題
Q.部品の開発や生産をめぐる完成品メーカーと部品メーカーの取引関係は多様である。そのような取引関係に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
委託図方式では、部品メーカーが部品の詳細設計を行うので、図面の所有権は部品メーカーに帰属し、部品の品質保証責任は完成品メーカーが負うことになる。
【イ】
承認図方式では、発注側が準備した部品の詳細設計に基づいて製造できる能力やコストを評価して部品外注先が選ばれる。
【ウ】
承認図方式や委託図方式では、部品メーカーには製造能力ばかりでなく設計開発能力が要求される。
【エ】
貸与図方式では、発注側が提示した部品の基本的な要求仕様に対して、部品メーカーは部品の詳細設計を行い、部品を試作し性能評価をすることになる。
【オ】
デザインインでは、部品メーカーは当該部品の開発段階の参加と発注側作成の詳細設計に基づく生産能力が求められるが、設計の外注が発生しないのでコスト負担は軽減される。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。委託図方式では、図面の所有権はメーカーが保有することになるため、不適切です。
イ:不適切。承認図方式は、サプライヤーが設計を準備するため、不適切です。
ウ:適切。承認図方式、委託図方式ともに、サプライヤーが設計するため、設計開発能力を求められるため、適切です。
エ:不適切。貸与図方式では、メーカーが設計するため、不適切です。
オ:不適切。デザインインとは「発注側が製品開発の段階から部品メーカーと共同・連携しながら製品開発を行うこと」をいいます。部品メーカーにも設計能力が求められるため、不適切です。
【過去問】令和2年度 第8問(製品開発)
問題
Q.以下のA欄の①~④に示す新製品開発やイノベーションを推進するための取り組みと、B欄のa~dに示すこれらの取り組みに当てはまる名称の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
【A 取り組みの内容】
① 新興国で開発された製品や技術を先進国に導入すること
② 新製品に関わる各部門が、外部環境における関連する領域と卓越した連携を持つこと
③ 製品の構造を分析し、動作原理、製造方法、設計図の仕様、ソースコードを調査し、学習すること
④ 職務よりもプロセスを重視した、事業プロセスの大きな設計変更を伴う職務横断的な取り組み
【B 取り組みの名称】
a リバース・エンジニアリング
b リエンジニアリング
c バウンダリー・スパンニング
d リバース・イノベーション
〔解答群〕
ア ①-a ②-b ③-c ④-d
イ ①-a ②-d ③-c ④-b
ウ ①-b ②-d ③-a ④-c
エ ①-d ②-c ③-a ④-b
オ ①-d ②-c ③-b ④-a
解答・解説
正解:エ
それぞれのキーワードの定義をしっかり覚えておきましょう。
【過去問】平成30年度 第10問(製品開発)
問題
Q.製品開発期間の短縮を図るために、製品開発のプロセスに注目して、いくつかの手法を体系的に組み合わせることが行われている。そのような手法に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
オーバーラップの開発手法では、開発プロセスの上流タスクの完了前に下流タスクを先行してスタートさせるので、事前に両タスクの内容を綿密に設計することが必要である。
【イ】
オーバーラップの開発手法では、開発プロセスの上流タスクと下流タスクの相互信頼が強い場合に効果的であり、コミュニケーション頻度や相互の調整を著しく減少させることによって開発期間が短縮される。
【ウ】
開発前半に速いスピードで解決できる問題を集中させて、開発後半で発生しやすく、時間や費用のかかる設計変更などの反復回数を減らすことは、開発期間の短縮に効果的である。
【エ】
コンピューター支援エンジニアリング(CAE)が開発手法の根本的な変革として自動車開発で導入が進んでいるのは、コンピューター上でシミュレーションしながら製品の完成度を評価できるので、実物試作が不要になるからである。
【オ】
フロントローディングでは、開発初期段階で開発に必要な経営資源の投入量が増加するので、開発後期での設計変更は不要になる。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。前半部分は正しいですが、後半の「事前に両タスクの内容を綿密に設計する」よりは、前のタスクの進捗に合わせて後半のタスクを設計するほうが重要であるため、不適切です。
イ:不適切。オーバーラップして開発する場合は、コミュニケーション頻度を高める必要があるため、不適切です。
ウ:適切。フロントローディングの定義と合致しており、適切です。
エ:不適切。CAEでコンピューター上でシミュレーションしても、実物は作成する必要があるため、不適切です。
オ:不適切。フロントローディングを採用しても、開発後期での設計が発生する可能性があるため、不適切です。
【過去問】令和4年度 第15問(製品開発)
問題
Q.組織セットモデルにおける渉外担当者(boundary personnel)の概念と機能に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
渉外担当者は、組織内外の接点に位置するゲートキーパーとしての役割を持つため、組織革新の誘導者となることもある。
【イ】
渉外担当者は、その組織の顔として組織を代表するものであるから、法的な代表権を有する必要がある。
【ウ】
渉外担当者は、他組織の脅威から当該組織を防衛するという境界維持機能を果たすため、外部環境とは距離を置き、組織内のメンバーと同質性を保つ必要がある。
【エ】
渉外担当者は、自らは不確実性を処理する権限を持たず、外部環境の状態や変化を組織内に正確に伝える役割を果たす必要がある。
【オ】
渉外担当者を通じた組織間関係は、市場関係を通じた調整ではなく、権限関係を通じた調整によって維持される。
解答・解説
正解:ア
※バウンダリー・スパンニング(渉外担当者)は組織論も含まれますが、こちらに掲載しています。
ア:適切。渉外担当者は、組織内外の接点に位置するゲートキーパーとしての役割を持つため、組織革新の誘導者になることがあるため、適切です。
イ:不適切。渉外担当者は法的な代表権を有する必要はないため、不適切です。
ウ:不適切。渉外担当者は外部組織と連携を促進する機能を持つため、不適切です。
エ:不適切。渉外担当者は外部環境を自社組織に役立つように処理することがあるため、不適切です。
オ:不適切。渉外担当者は、社内外の調整を権限関係で行うわけではないため、不適切です。
今日のおさらい
今回は「研究開発のマネジメント」を勉強しました。
研究開発~事業化の障壁、外注調達品の開発・管理方式は、キーワードを変えて出題しやすい領域です。ポイントを理解しておきましょう。
研究開発のマネジメント
- 研究開発には「基礎研究」「応用研究」「開発研究」がある。
- 研究開発~事業化における障壁には、①基礎研究から応用研究における障壁である「魔の川(デビルリバー)」、②応用研究から製品化における障壁である「死の谷(デスバレー)」、③最後の製品化から事業化における障壁である「ダーウィンの海」がある。
- 外注調達品の開発・管理方式には「貸与図方式」「委託図方式」「承認図方式」がある。委託図方式と承認図方式はサプライヤーが設計するが、図面の所有権・部品の品質保証責任を前者はメーカー、後者はサプライヤーが持つ点で異なる。
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
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