企業経営理論【6】成長ベクトル・多角化・撤退戦略

1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。

今回は「成長ベクトル・多角化・撤退戦略」です。 インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。

出題範囲との関係

【経営戦略論】

・経営計画と経営管理
・企業戦略
成長戦略
・経営資源戦略
・競争戦略
・技術経営(MOT)
・国際経営(グローバル戦略)
・企業の社会的責任(CSR)
・その他経営戦略論に関する事項

【組織論】

【マーケティング】

今回の学習キーワード

  • 成長戦略
  • アンゾフの成長ベクトル(市場浸透、新製品開発、新市場開拓、多角化)
  • 関連型多角化、非関連型多角化
  • 水平型多角化、垂直型多角化、集中型多角化、集成型多角化
  • 撤退戦略
目次

経営戦略策定プロセスとの関係

最初に、今回の学習内容が【経営戦略策定プロセス】のどこに該当するか、確認しましょう。

今回の内容は、前回の【ドメイン(事業領域)】の策定を受けて、その領域のなかで、企業を成長させる方向性を検討するステップになります。

成長戦略と多角化戦略

成長戦略とは「企業の方向性や事業領域の策定に関わる戦略をいいます。

成長方針の具体的な活動としては、既存製品の新用途の発見、新技術の開発、未開拓市場の開拓、他業種との連携、M&A、多角化などが該当します。

成長戦略で重要なキーワードは「アンゾフの成長ベクトル」「多角化」です。以下の図をベースに理解するとスムーズです。

アンゾフの成長ベクトル

アンゾフは「経営戦略の父」と呼ばれる学者で、企業戦略の方向性を検討するための分析フレームとして「成長ベクトル」を提唱しました。

成長ベクトルとは「市場と製品を【既存】と【新規】に分けて、企業の戦略の方向性を検討するフレーム」です。

アンゾフは、4つの戦略の方向性を提唱しました。

アンゾフの成長ベクトル(成長マトリックス)

  • 市場浸透戦略
    • 既存の製品・市場で、広告宣伝費や販促を強化し、シェアの拡大を志向する戦略
    • 購入頻度と量の増大、競合企業からのスイッチ、未利用者の獲得など
  • 新製品開発戦略
    • 既存の市場に、新製品やライン追加など新製品を開発・投入していく戦略
    • 新しい特徴の追加、異なる製品の開発、大きさや色などのバリエーションの追加など
  • 新市場開拓戦略
    • 既存の製品を、新しい市場に向けて販売(用途提案も含む)していく戦略
    • 国内→海外、関東→全国展開、幼児→シニアへの開拓など
  • 多角化戦略
    • 新しい製品を、新しい市場に向けて販売していく戦略

上記の4つのうち、1~3は既存事業の延長上であるため「拡大化戦略」と呼ばれます。

多角化戦略

多角化戦略とは新しい製品を新しい市場に向けて販売していく戦略です。

最初に、企業が多角化を行う動機を「内的要因」と「外的要因」から理解しましょう。

企業が多角化を行う動機

  • 【内的要因(内的誘引)】経営資源の有効活用
    • 範囲の経済(シナジー効果)の追求
    • 余剰資源(組織スラック)の有効活用
  • 【外的要因(外的誘引)】市場の事情から多角化
    • 既存事業の需要停滞への対応
    • 新しい市場分野への進出によるリスク分散

なお、多角化は「シナジーとリスク分散」の観点から理解することが大切です。

多角化には、既存事業との関連性が強い分野に進出する「関連型多角化」既存事業との関連性が弱い分野に進出する「非関連型多角化」があります。

関連型多角化は、企業を構成する各SBU(戦略事業単位)が、開発技術、製品の用途、流通チャネル、生産技術、管理ノウハウなどを共有する多角化です。

関連型多角化は「シナジー効果が発揮しやすく、収益性が高くなりやすいが、環境変化が起きたときのリスク分散が難しい」ことを覚えておきましょう。

関連型多角化は3つに分類できます。

関連型多角化の種類

  • 水平型多角化
    • 現在の顧客と同じタイプの顧客を対象にして、新製品を投入する多角化。
  • 垂直型多角化
    • 既存市場の川上(原材料側)もしくは川下(小売業側)に進出する多角化。
    • 前者を「後方的多角化」、後者を「前方的多角化」という
  • 集中型多角化
    • 既存事業のマーケティングや技術と関連がある新製品を新市場に投入する多角化。
    • 最も効果が高く、高い利益を生むと言われる

一方、非関連型多角化は、一般性の高い経営管理スキルと財務資源(カネ)以外、企業を構成する各SBU間の関連性が希薄な多角化です。

非関連型多角化は「シナジー効果よりも、ポートフォリオ効果によるリスク分散を重視し、環境変化が起きたときの影響を抑えることができる」ことが特徴です。

別名、「集成型多角化(コングロマリット型多角化)」とも言われます。

多角化の程度と成長性・収益性の関係

多角化の程度と収益性・成長率の関係も理解しておきましょう。

多角化の程度が高くなる(=非関連型になる)ほど、成長性は高くなります。

一方、収益性は、多角化の程度が中程度が最も高く、多角化の程度が高くなる(=非関連型になる)と、収益性が下がる傾向があります。

撤退戦略

経営資源の有効活用という観点では、撤退戦略も大事な成長戦略です。

不採算分野からの徹底が遅れると、経営資源の浪費を招き、不利な状況に陥る可能性があるためです。

日本では、撤退障壁(撤退を妨げる障壁)が強く、撤退戦略が難しいと言われることがあります。

主な撤退障壁には以下があります。

撤退障壁の種類

  • 撤退により発生する埋没費用や固定費が存在する
  • 撤退のための費用がかかる
  • 他の事業との密接な関係があり、撤退が難しい
  • 経営者の感情的な抵抗(事業への想い)がある

【過去問】令和4年度 第1問(多角化)

問題

Q.企業の多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。

【イ】
R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。

【ウ】
R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。

【エ】
伊丹敬之によると、1 つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の2 種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。

【オ】
関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

解答・解説

正解:オ

ア:不適切。試験会場では判断できないので他の選択肢を見ましょう。アメリカではコングロマリット化が1970年代まで進みましたが、その後は、不採算事業の撤退から多角化の程度は低下しているため、不適切です。

イ:不適切。多角化の程度(=非関連型多角化)が高くなると、収益性が一定限度を超えると低下するため、不適切です。

ウ:不適切。多角化の程度(=非関連型多角化)が高くなると、成長性は高くなるため、不適切です。

エ: 不適切。物理的な経営資源の利用効率を高めるのは相補効果であるため、不適切です。

オ:適切。集約型(=関連型多角化)のほうが拡散型(=非関連型)よりも収益性が高くなるため、適切です。

【過去問】令和3年度 第1問(多角化)

問題

Q.多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
企業における多角化の程度と収益性の関係は、その企業が保有する経営資源にかかわらず、外部環境によって決定される。

【イ】
情報的経営資源は、複数の事業で共有するとその価値が低下するため、多角化の推進力にはならない。

【ウ】
多角化の動機の 1 つとして、社内に存在する未利用資源の活用があげられる。

【エ】
多角化は規模の経済を利用するために行われる。

解答・解説

正解:ウ

ア:不適切。企業の経営資源との関連によって、多角化の程度(関連型多角化、非関連型多角化)や収益性は変わるため、不適切です。

イ:不適切。情報的経営資源は、複数の事業で共有すると価値が上昇するため、不適切です。

ウ:適切。社内の未利用資源(=余剰資源、組織スラック)の活用は多角化の動機であるため、適切です。

エ: 不適切。多角化は範囲の経済の追求が動機になるため、不適切です。

【過去問】平成30年度 第1問(多角化)

問題

Q.企業の多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
外的な成長誘引は、企業を新たな事業へと参入させる外部環境の条件であるが、主要な既存事業の市場の需要低下という脅威は、新規事業への参入の誘引となりうる。

【イ】
企業の多角化による効果には、特定の事業の組み合わせで発生する相補効果と、各製品市場分野での需要変動や資源制約に対応し、費用の低下に結びつく相乗効果がある。

【ウ】
企業の本業や既存事業の市場が成熟・衰退期に入って何らかの新規事業を進める場合、非関連型の多角化は、本業や既存事業の技術が新規事業に適合すると判断した場合に行われる。

【エ】
事業拡大への誘引と障害は、企業の多角化の形態や将来の収益性の基盤にまで影響するが、非関連型の多角化では、既存事業の市場シェアが新規事業の市場シェアに大きく影響する。

【オ】
内的な成長誘引は、企業を多角化へと向かわせる企業内部の条件であり、既存事業の資源を最大限転用して相乗効果を期待したいという非関連型多角化に対する希求から生じることが多い。

解答・解説

正解:ア

ア:適切。主要な既存事業の市場の需要低下は、多角化の動機になるため、適切です。

イ:不適切。相補効果と相乗効果が逆であるため、不適切です。

ウ:不適切。本業や既存事業の技術が新規事業に適合するのは関連型多角化であるため、不適切です。

エ: 不適切。既存事業のシェアが新規事業の市場シェアに関連するのは関連型多角化であるため、不適切です。

オ:不適切。相乗効果を期待するのは関連型多角化であるため、不適切です。

【過去問】平成26年度 第3問(撤退戦略)

問題

Q.業績が悪化している事業から撤退すべきであっても、なかなかそれができないのは、撤退を阻む障壁が存在するからである。そのような撤退障壁が生じている状況に関する記述として、最も不適切なものはどれか。

【ア】
自社の精神ともいうべき事業への創業者や従業員の思い入れが強く、現状で踏ん張らざるをえない。

【イ】
生産過剰で収益率が悪化しているが、業界秩序を守る協定が存在しているので同業者数に変化はなく、市場競争は平穏である。

【ウ】
撤退のための社内再配置等のコストがかさむので、撤退の判断が難しくなる。

【エ】
特定の業種にしか利用できない資産のために清算価値が低く、それを移動したり流用しようとすると、そのためのコスト負担が新たに大きくのしかかる。

【オ】
不採算に陥っている事業であっても、他の事業との関連性が強いために、撤退すると他の事業の不利益を招き、自社の戦略上の強みを失いかねない。

解答・解説

正解:イ

ア:適切。経営者の感情的な抵抗(事業への想い)は撤退障壁であるため、適切です。

イ:不適切。協定が存在していても収益率が悪化すると、同業者数に変化が生じる可能性が高いため、不適切です。

ウ:適切。撤退のための費用がかかることは撤退障壁になるため、適切です。

エ:適切。撤退により発生する埋没費用や固定費が存在する場合は撤退障壁になるため、適切です。

オ:適切。他の事業との密接な関係があり、撤退が難しい場合は撤退障壁になるため、適切です。

今日のおさらい

今回は「成長ベクトル・多角化・撤退戦略」を勉強しました。

1次試験では、多角化の内容を問う問題が多く出題されます。関連型多角化、非関連型多角化の違いは覚えておきましょう。

成長ベクトル・多角化・撤退戦略

  1. 成長ベクトルとは「市場と製品を【既存】と【新規】に分けて、企業の戦略の方向性を検討するフレーム」。市場浸透戦略、新製品開発戦略、新市場開拓戦略、多角化戦略に分類される
  2. 多角化戦略の動機には、経営資源を有効活用する「内的要因」、市場の事情から多角化する「外的要因」がある。多角化の種類には、シナジー効果を期待した「関連型多角化」とポートフォリオ効果を期待した「非関連型多角化」がある
  3. 撤退障壁には、①埋没費用や固定費の発生、②他事業との関係、③経営者の感情的な抵抗(事業への想い)がある

中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。

できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。

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この記事を書いた人

中小企業診断士(令和2年度合格)

令和元年度、1次試験合格(通信講座)
その年の2次試験はあえなく不合格。
翌年は3ヶ月の完全独学で2次試験に合格。

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