企業経営理論【3】マネジメント階層・意思決定

1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。

今回は「マネジメント階層・意思決定」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。

出題範囲との関係

【経営戦略論】

経営計画と経営管理
・企業戦略
・成長戦略
・経営資源戦略
・競争戦略
・技術経営(MOT)
・国際経営(グローバル戦略)
・企業の社会的責任(CSR)
・その他経営戦略論に関する事項

【組織論】

【マーケティング】

今回の学習キーワード

  • マネジメント階層
  • アンゾフの意思決定(戦略的意思決定、管理的意思決定、業務的意思決定)
  • 計画のグレシャムの法則
  • サイモンの意思決定プロセス
  • 最適化原理、満足化原理
  • エフェクチュエーション、コーゼーション
目次

マネジメント階層

前回の【経営理念・経営計画・経営管理】では、経営のピラミッド構造について説明しました。

企業が経営活動を行っていく上では、経営理念や経営戦略を策定する人、現場で実行する人などが階層を形成して活動していきます。

それを整理したのが「マネジメント階層」です。

組織のマネジメント階層は「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」に分かれます。

トップマネジメントに行くほど、全社的・環境適応・構想化といった非定型的な意思決定が求められます。

一方、ロワーマネジメントは現場的・内部効率・技術的技能といった定型的な意思決定が中心になります。

アンゾフの意思決定分類

アンゾフは、マネジメント階層ごとに必要な意思決定が異なるとして、以下の整理をしています。

トップマネジメントは、経営陣が該当し、経営ビジョンの実現に向けた経営戦略を策定する「戦略的意思決定」を行います。構想化技能を必要とする非定型的な意思決定になります。

ミドルマネジメントは、部長や課長などの役職で、管理職能を担います。担当部門の業績を最大化できるように、経営資源の調達や配分を決定する「管理的意思決定」を行います。

ロワーマネジメントは、係長や主任などの役職で、監督機能を担います。現場効率の最大化を目指した「業務的意思決定」を行います。この階層は定型的な意思決定になります。

計画のグレシャムの法則

トップマネジメントやミドルマネジメントが目先の現場対応(=定型的な意思決定)に追われ、長期的な戦略(=非定型的な意思決定)を後回しになってしまうことを「計画のグレシャムの法則」といいます。

サイモンは「ルーチンワークは創造性を駆逐する」と警告しています。

これは2次試験の事例Iにおける機能別組織の問題点として、頻出される論点です。このタイミングで理解しておきましょう。

サイモンの意思決定プロセス

意思決定とは「いくつかある代替案の中から、1つを選択する行為」をいいます。

サイモンは意思決定プロセスとして、以下の4つの活動を挙げています。

情報活動:意思決定に必要な情報を収集する
設計活動:複数の代替案を設計する
選択活動:複数の代替案の中から1つを選ぶ
評価活動:次の意思決定のために、選んだ案が問題なかったかを評価する

なお、最初の情報活動では「事実前提」と「価値前提」が大事です。

  • 事実前提
    • 価格.comのような客観的に評価できる情報
    • 定量情報
  • 価値前提
    • 組織目的や個人の価値観などの主観的な情報
    • 定性情報

また、選択活動では「最適化原理」と「満足化原理」の違いを覚えておきましょう。

  • 最適化原理
    • すべての情報を完全に把握でき、最大の合理性のもと最適な意思決定を行う
    • 経済人モデルとも呼ばれる
  • 満足化原理
    • 人間の合理性には限界があるので、限られた代替案の中から満足できる案を選ぶ意思決定
    • 経営人モデルとも呼ばれる

最適化原理は、現実的には無理であるため、満足化原理で判断することになります。

エフェクチュエーション

エフェクチュエーションとは「経験豊富な起業家の行動から抽出された意思決定についての考え方であり、今ある手段から何ができるかと問いかけるアプローチ」をいいます。

エフェクチュエーションでは、従来の「売上〇億円」といった目指す結果から手段を検討するアプローチを「コーゼーションと呼んでいます。

コーゼーションは、ある程度将来が予測できる場合では有効であるが、不確実で将来の予測が難しいVUCA時代では通用しないと言われています。

そこで、不確実な状況下でも新たなビジネスを創造していく起業家の共通思考が注目され、手持ちの手段から新しいゴールを発見していくアプローチであるエフェクチュエーションが注目されています。

エフェクチュエーションでは、5つの原則があります。

エフェクチュエーションの5つの原則

  • 許容可能な損失の原則
    • どこまでの損失であれば許容できるかをあらかじめ設定しておく
  • クレイジーキルトの原則
    • 様々な関係者と交渉して関係性を構築していく
  • 手中の鳥の原則
    • 企業や組織がすでに保有しているスキルやノウハウ、人脈などを活用していく
  • 飛行機の中のパイロットの原則
    • 不測の事態に備えて、外部環境の変化に対して柔軟に行動する
  • レモネードの原則
    • 使い物にならない欠陥品でも工夫を凝らして、新たな価値を持つ製品へと生まれ変わらせる

エフェクチュエーションは、直近でも出題されているので、しっかり理解しておきましょう。

【過去問】令和2年度 第2問(意思決定)

問題

Q.H.I.アンゾフは、経営戦略の考察に当たって、戦略的意思決定、管理的意思決定、業務的意思決定の 3 つのカテゴリーを基軸として、企業における意思決定を論じている。それぞれの意思決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
管理的意思決定とは、最大の成果を引き出すための経営資源の組織化に関わる意思決定である。

【イ】
企業の多角化戦略は、管理的意思決定における主要な決定事項の 1 つである。

【ウ】
戦略的意思決定の対象となる問題は、事業活動を通じて生じることから、トップ・マネジメントが意識的に関心を寄せなくても、自ら明らかになる。

【エ】
戦略的意思決定は、企業外部の問題よりも、むしろ企業内部の問題と主に関わっている。

【オ】
戦略的意思決定は、企業における資源配分を中心としており、固定資産や機械設備など企業内部の資産に対する投資の意思決定と同じである。

解答・解説

正解:ア

ア:適切。管理的意思決定は、担当部門の業績を最大化できるように、経営資源の調達や配分を決定するものなので、適切です。

イ:不適切。企業の多角化戦略は、戦略的意思決定の領域になるため、不適切です。

ウ:不適切。トップ・マネジメントが意識的に関心を寄せる必要があるため、不適切です。

エ:不適切。戦略的意思決定は、経営ビジョンの実現に向けた経営戦略を策定する意思決定です。企業内部よりも外部との関わりが強くなるため、不適切です。

オ:不適切:企業における資源配分を中心とするのは管理的意思決定であるため、不適切です。

【過去問】令和元年度 第3問(意思決定)

問題

Q.次の文中の空欄A~Dに入る用語の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

アンゾフは、環境変化が激しく、企業が決定すべき選択肢の評価基準も与えられていない高度に不確実な状況を、【 A 】という概念で捉え、【 A 】の状況下において、企業が取り組むべき問題を確定させ、その問題解決の方向性を探求することを経営戦略論の固有の課題と示した。
その上で、企業が行っている意思決定を、【 B 】的意思決定、【 C 】的意思決定、そして【 D 】的意思決定に分類した。【 B 】的意思決定は、現行の業務の収益性の最大化を目的とするもの、【 C 】的意思決定は、最大の業績が生み出せるように企業の資源を組織化するもの、【 D 】的意思決定は、将来どのような業種に進出すべきかなどに関するものである。

〔解答群〕
ア A:非対称情報  B:業務  C:組織  D:戦略
イ A:非対称情報  B:日常  C:管理  D:計画
ウ A:非対称情報  B:日常  C:組織  D:長期
エ A:部分的無知  B:業務  C:管理  D:戦略
オ A:部分的無知  B:業務  C:戦略  D:長期

解答・解説

正解:エ

解説:アンゾフは、経営者が意思決定に置おいて、万全の準備や努力をしても不確定要素が残る、つまり、「部分的な無知」の状態で臨まなければならないと述べています。B~Dは、インプット編を理解していれば回答できます。Aがわからなくても、B~Dで確実に正解したい設問です。

【過去問】令和4年度 第8問(エフェクチュエーション)

問題

Q.次の文章の空欄に入る記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

エフェクチュエーションは、S.D.サラスバシーが経験豊富な起業家の行動から抽出した実践的なロジックである。エフェクチュエーションは、【    】である。

ア 成功と失敗の確率が事前に分かっている場合に有効
イ 特定の事業機会における競合分析や市場分析を行う場合に有効
ウ どのような環境に注目し、どのような環境を無視すべきかが不明瞭な場合に有効
エ 目的からさかのぼって手段を考えることができる場合に有効
オ 目的の選好順位が明確な場合に有効

解答・解説

正解:ウ

ア:不適切。エフェクチュエーションは、不確実な状況下でビジネスを創造していく起業家の共通思考であるため、不適切です。

イ:不適切。エフェクチュエーションは、競合分析や市場分析に関わる内容ではないため、不適切です。

ウ:適切。エフェクチュエーションは、不確実な状況下でビジネスを創造していく実行理論であるため、適切です。

エ:不適切。コーゼーションに関する内容であるため、不適切です。

オ:不適切:コーゼーションに関する内容であるため、不適切です。

【過去問】令和3年度 第8問(エフェクチュエーション)

問題

Q.サラス・サラスバシー(S. D. Sarasvathy)は、経験豊富な起業家の経験より抽出された実践的なロジックから構成されるエフェクチュエーション(effectuation)という概念を生み出した。エフェクチュエーションは、「手段(means)」からスタートし、「これらの手段を使って、何ができるだろうか」と問いかけることから始める。その点で、「結果(effect)」からスタートし、「これを達成するためには、何をすればよいか」を問うコーゼーション(causation)と対比されるものである。
このエフェクチュエーションを構成する 5 つの行動原則に関する記述として、最も不適切なものはどれか

【ア】
許容可能な損失(affordable loss)の原則とは、創業後に事業を継続するかどうかを判断する際に、事前に設定した許容可能な損失の上限に達したという理由で、事業を途中でやめないということである。

【イ】
クレイジーキルト(crazy-quilt)の原則とは、起業活動に必要な自分以外との関係性をあらかじめ作成した設計図に基づいてつくるのではなく、起業後に自分を取り巻く関与者と交渉しながら関係性を構築していくことである。

【ウ】
手中の鳥(bird in hand)の原則とは、もともと自分が持っているリソースを使って行うことである。具体的には自分が何者であるか、自分は誰を知っているか、そして自分は何を知っているのかを認識して、それらを活用することから始めることである。

【エ】
飛行機の中のパイロット(pilot in the plane)の原則とは、予測できないことを避けようとするのではなく、予測できないことのうち自分自身でコントロール可能な側面に焦点を合わせ、自らの力と才覚を頼って生き残りを図ることである。

【オ】
レモネード(lemonade)の原則とは、予測できないことを前向きに捉え、不確実性を梃子(てこ)のように利用しようとすることである。

解答・解説

正解:ア

ア:不適切。許容可能な損失の原則とは、どこまでの損失であれば許容できるかをあらかじめ設定しておくことであるため、不適切です。

イ:適切。選択肢の通りです。

ウ:適切。選択肢の通りです。

エ:適切。選択肢の通りです。

オ:適切:選択肢の通りです。

今日のおさらい

今回は「マネジメント階層・意思決定」を勉強しました。

基本を理解していれば対応できる問題が多いです。アンゾフの意思決定、計画のグレシャムの法則、サイモンの満足化原理、エフェクチュエーションは理解しておきましょう。

マネジメント階層・意思決定

  1. 階層ごとに求められる意思決定は異なる。トップマネジメントは「戦略的意思決定」、ミドルマネジメントは「管理的意思決定」、ロワーマネジメントは「業務的意思決定」を担当する
  2. トップマネジメントが定型的な意思決定に追われ、戦略などの非定型的な意思決定がおろそかになってしまうことを「計画のグレシャムの法則」という
  3. エフェクチュエーションとは、経験豊富な起業家の行動から抽出された意思決定についての考え方であり、今ある手段から何ができるかと問いかけるアプローチをいう

中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。

できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。

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この記事を書いた人

中小企業診断士(令和2年度合格)

令和元年度、1次試験合格(通信講座)
その年の2次試験はあえなく不合格。
翌年は3ヶ月の完全独学で2次試験に合格。

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