1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「経営環境の分析・ドメイン」です。 インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
・経営計画と経営管理
・企業戦略
・成長戦略
・経営資源戦略
・競争戦略
・技術経営(MOT)
・国際経営(グローバル戦略)
・企業の社会的責任(CSR)
・その他経営戦略論に関する事項
【組織論】
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- 外部環境、内部環境
- マクロ環境、ミクロ環境
- PEST分析、3C分析、SWOT分析、クロスSWOT分析
- ドメイン
- エイベルの3次元定義、物理的定義、機能的定義
- マーケティング近視眼(マイオピア)
- 企業ドメイン、事業ドメイン
試験対策
「ドメイン」が頻出論点です。特に、企業ドメインと事業ドメインの違いを理解しておきましょう。
経営戦略策定プロセスとの関係
最初に、今回の学習内容が【経営戦略策定プロセス】のどこに該当するか、確認しましょう。
今回の内容は、経営理念や経営ビジョンの策定を受けて、「外部環境や内部環境を分析し、事業領域(=ドメイン)を明確化する」になります。
経営環境の種類
企業を取り巻く経営環境を分析する手法を整理すると、以下になります。
経営環境には「外部環境」と「内部環境」があります。さらに、外部環境は「マクロ環境」と「ミクロ環境」に分類できます。
マクロ環境とは「社会構造の変化として底流に流れている環境」で、自社でコントールできない環境です。自然環境、政治・法律環境、経済環境、社会・文化環境、技術環境などがあります。
一方、ミクロ環境とは「マクロ環境に誘発され、それらが絡み合って企業に直接影響を与える環境」で、自分でコントールできる(しやすい)環境です。市場環境、競合環境、供給環境、中間流通環境などがあります。
また、内部環境とは「企業内部の資源」で、組織構造、人材力、財務力、研究開発力、生産能力、マーケティング力などがあります。
経営環境の分析手法
経営環境を分析する目的は、市場における機会や脅威を明らかにし、自社にとっての機会と戦略の方向性を探ることです。
マクロ環境の分析では「PEST分析」、ミクロ環境の分析では「3C分析」が有名です。
PEST分析:マクロ環境の変化を分析する手法
- Politics(政治的要因)
- 法律や条例、規制など、行政レベルのルール変化
- Economy(経済的要因)
- 経済成長や物価、為替など経済動向の変化
- Society(社会的要因)
- ライフスタイルの変化や生活者意識の変化
- Technology(技術的要因)
- 商品開発や生産、マーケティング技術の変化
3C分析:ミクロ環境の動向を分析する手法
- 顧客(Customer)
- 市場規模・成長性、顧客ニーズ、購買決定プロセス
- 競合(Competitor)
- 業界の寡占度、参入難易度、競合の戦略
- 自社(Company)
- 全体戦略、利用可能な資源、自社能力(強み・弱み)
SWOT分析
SWOT分析は、外部環境と内部環境について、プラス影響とマイナス影響から「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」「強み (Strengths)」「弱み(Weaknesses)」に整理する手法です。
上記で環境を整理した後は、戦略の方向性を検討するためにクロスSWOT分析を実施します。
2次試験では、クロスSWOT分析の中でも「脅威がある中で、強みを活かし、機会を掴む」ことが経営資源が限られている中小企業の基本方針になります。
ドメイン
経営環境を分析する目的は、市場における機会や脅威を明らかにし、自社にとっての機会と戦略の方向性を探ることでした。そこで、自社が戦う領域(=ドメイン)を決めていきます。
ドメインとは「企業の事業領域」のことです。
現在から将来にわたって、企業の事業がいかにあるべきかを明示した生存領域を示します。
ドメインを定義するメリット
- 意思決定の焦点が絞れる(情報の選別がしやすくなる)
- 経営資源の資源分散を防ぐことができる
- 経営資源の蓄積の指針になる(必要となる資源が明確になる)
- 組織としての一体感を醸成できる
ドメインの定義方法
ドメインの定義方法として「エイベルの3次元定義」「物理的定義・機能的定義」を覚えておきましょう。
エイベルの3次元定義(CFT)
- 標的顧客(C:Customer)
- どのターゲットの
- 顧客機能(F:Function)
- どのような顧客ニーズに対して
- 独自能力・技術(T:Technology)
- どのような技術で対応するか
シンプルに「誰に(Who)、何を(What)、どのように(How)」と覚えておきましょう。
ドメインの理解を深めるには、機能的定義と物理的定義をもとに考えていきます。
機能的定義・物理的定義
- 物理的定義
- ドメインを製品の物理的実態(モノ)に着目して規定する
- 化粧品といった「モノ」で定義
- エーベルの3次元定義の「技術」に該当する
- 機能的定義
- ドメインを顧客に提供する機能(コト)に着目して規定する
- 夢を売る仕事といった「コト」で定義
- エーベルの3次元定義の「顧客機能(ニーズ)」に該当する
物理的定義はわかりやすい反面、事業を狭く捉えてしまう、現在の事業領域を超える発想が出にくいデメリットがあります。
これを経営学者レビットは「マーケティング近視眼(マイオピア)」と警告しました。
マーケティング近視眼(マイオピア)とは「機能に着目しすぎると、環境変化が生じたときに対応しきれなくなる」ことで、「製品志向が強すぎて、顧客志向がない状態のこと」をいいます。
では、機能的定義が良いかというと、機能的定義は発展可能性が高い一方で、抽象的で資源が分散しやすいデメリットがあります。
マーケティングで勉強しますが、市場導入期~成長期は「物理的定義」で旗印を明確にし、成熟期になったら「機能的定義」に広げていくのが1つの考え方になります。
このように、ドメインは狭すぎると、顧客ニーズを逃すリスクが高まり、広すぎると、経営資源が分散化し、競争が激化しやすくなる特性があります。
「企業ドメイン」と「事業ドメイン」
ドメインの領域には「企業ドメイン」と「事業ドメイン」があります。
企業ドメインは「企業全体のドメイン」になります。展開していく事業の範囲、企業のアイデンティティ、複数事業の関連性(ポートフォリオ)やシナジーなどを決めます。
それを受けて、事業部ごとに個別事業の範囲や競争力などを「事業ドメイン」として定義します。エイベルの3次元定義(CFT)は事業ドメインを考える際の有用なツールになります。
なお、企業ドメインと事業ドメインは、複数の事業を展開しているときの考え方です。単一事業の場合は、企業ドメイン=事業ドメインになります。
1次試験では、企業ドメインと事業ドメインが入れ替わって出題されることが多いので、上記の図を理解しておきましょう。
ドメインの再定義
ドメインは環境変化に合わせて変化させていく必要がああります。その際は、組織外部とも合意(コンセンサス)を得ることが望まれます。
現在のドメインを変更することを「ドメインの再定義」といいます。
ただし、ドメインを再定義したものの、そのドメインが上手く浸透しないことがあります。その理由として、以下の4つを理解しておきましょう。
再定義したドメインが進展しない理由
- 既存事業の仕組みを再構築するのに時間・労力がかかる
- 再定義したドメインが変わり映えしない/以前よりも魅力に感じない
- 現在のドメインに慣れている顧客の理解を得るのが難しい
- 現在のドメインに慣れ親しんだ従業員の抵抗がある
【過去問】平成29年度 第31問(設問3)(環境分析)
問題
Q.次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
長年にわたり、羽毛布団の製造小売を行ってきたY社は、近年、拡大を続ける全国チェーンのインテリア専門店に羽毛布団の顧客を奪われてしまったため、新社長のP氏は羽毛を原材料とした新製品の開発を通じて、新たな顧客を創造するという構想を練り始めている。所有する生産設備もうまく活用する形での新製品開発
に向け、P氏は中小企業診断士であるQ氏から基本的な①製品開発のプロセスについてアドバイスを受けている。その結果、いくつかの②コンセプト案がリストアップされた。ここから一年間を費やしてそれらからいくつかの製品を市場投入段階まで到達させることを念頭に置いて、P氏はそのための準備に取り組んでいる。P氏は、まず③市場動向を把握し、競合となりうる製品・企業を特定するための作業に着手している。
(設問3)
文中の下線部③に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
PEST分析は、組織の外部環境を捉えるための方法である。これは、政治的環境、企業文化的環境、社会的環境、技術的環境というつの側面から外部環境を把握することを支援する。
【イ】
SWOT分析は、組織の内部環境の把握に限定した方法であるが、自社の強みと弱み、機会と脅威のそれぞれを構成する要素を整理するために有用である。
【ウ】
相対的市場シェアとは、最大の競争相手の市場シェアで自社の市場シェアを割る(除する)ことで算出される数値である。この値が50 %を超えていれば、自社はその市場のリーダー企業である。
【エ】
有効市場とは、ある製品・サービスに対する十分な関心をもち、購買に必要な水準の収入を有しており、かつその製品・サービスにアクセスすることができる消費者の集合のことである。
解答・解説
正解:エ
ア:不適切。PEST分析の「E」は「企業文化的環境」ではなく、「経済環境」であるため、不適切です。
イ:不適切。SWOT分析には、組織の「内部環境」だけでなく、「外部環境」も含まれるため、不適切です。
ウ:不適切。相対的市場シェアは、自社の市場シェアを自社を除く最大競争相手の市場シェアで割る(除する)ことで求められるため、不適切です。
エ:適切。選択肢の通りです。
【過去問】令和5年度 第1問(ドメイン)
問題
Q.ドメインに関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
PPM を用いた事業間の資源配分の決定を基に、企業ドメインが決定される。
【イ】
企業ドメインには、多角化の広がりの程度、個別事業の競争戦略の方針、差別化の在り方および日常のオペレーションといった内容が含まれる。
【ウ】
経営者は事業間でシナジー効果がどれくらい働くのかを考えて、企業ドメインを決定する。
【エ】
事業ドメインには、部門横断的な活動や他の事業分野との関連性、将来の企業のあるべき姿や経営理念といった内容が含まれる。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。PPMは企業ドメインの内容ですが、企業ドメインが決まった後に資源配分がなされるため、不適切です。
イ:不適切。個別事業の競争戦略の方針、差別化の在り方は事業ドメインになるため、不適切です。
ウ:適切。事業間のシナジー効果の検討は企業ドメインになるため、適切です。
エ: 不適切。将来の企業のあるべき姿や経営理念に関する内容は企業ドメインになるため、不適切です。
【過去問】令和元年度 第1問(ドメイン)
問題
Q.多角化して複数の事業を営む企業の企業ドメインと事業ドメインの決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
企業ドメインの決定は、個々の事業の定義を足し合わせるのではなく、外部の利害関係者との間のさまざまな相互作用の範囲を反映し、事業の定義を見直す契機となる。
【イ】
企業ドメインの決定は、新規事業進出分野の中心となる顧客セグメント選択の判断に影響し、競争戦略策定の出発点として差別化の基本方針を提供する。
【ウ】
事業ドメインの決定は、将来手がける事業をどう定義するかの決定であり、日常のオペレーションに直接関連し、全社戦略策定の第一歩として競争戦略に結び付ける役割を果たす。
【エ】
事業ドメインの決定は、多角化の広がりの程度を決め、部門横断的な活動や製品・事業分野との関連性とともに、将来の企業のあるべき姿や経営理念を包含している存続領域を示す。
【オ】
事業ドメインの決定は、特定市場での競争戦略に影響を受け、将来の事業領域の範囲をどう定義するかについて、企業が自らの相互作用の対象として選択した事業ポートフォリオの決定である。
解答・解説
正解:ア
ア:適切。企業ドメインは事業の単純な足し算ではなく、外部の利害関係者との関係や、シナジー効果を考慮する必要があるため、適切です。
イ:不適切。差別化の基本方針を提供するのは事業ドメインになるため、不適切です。
ウ:不適切。将来手がける事業をどう定義するかは企業ドメインになるため、不適切です。
エ: 不適切。将来の企業のあるべき姿や経営理念を示すのは企業ドメインになるため、不適切です。
オ:不適切:事業ポートフォリオの決定は企業ドメインになるため、不適切です。
【過去問】平成29年度 第1問(ドメイン)
問題
Q.多角化した企業のドメインと事業ポートフォリオの決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
多角化した企業の経営者にとって、事業ドメインの決定は、企業の基本的性格を決めてアイデンティティを確立するという問題である。
【イ】
多角化した企業の経営者にとって、事業ドメインの決定は、現在の活動領域や製品分野との関連性を示し、将来の企業のあるべき姿や方向性を明示した展開領域を示す。
【ウ】
多角化した事業間の関連性を考える経営者にとって、企業ドメインの決定は、多角化の広がりの程度と個別事業の競争力とを決める問題である。
【エ】
多角化した事業間の関連性を考える経営者にとって、事業ドメインの決定は、全社戦略の策定と企業アイデンティティ確立のための指針として、外部の多様な利害関係者との間のさまざまな相互作用を規定する。
【オ】
多角化を一層進めようとする経営者は、事業間の関連性パターンが集約型の場合、範囲の経済を重視した資源の有効利用を考える。
解答・解説
正解:オ
ア:不適切。企業のアイデンティティは企業ドメインになるため、不適切です。
イ:不適切。将来の企業のあるべき姿や方向性を明示するのは企業ドメインになるため、不適切です。
ウ:不適切。個別事業の競争力とを決めるのは事業ドメインになるため、不適切です。
エ:不適切。全社戦略の策定と企業アイデンティティ確立は企業ドメインになるため、不適切です。
オ:適切:集約型は関連型多角化に該当し、範囲の経済性(シナジー)を重視するため、適切です。
【過去問】平成28年度 第1問(ドメイン)
問題
Q.ドメインの定義、および企業ドメインと事業ドメインの決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
事業ドメインに関する企業内の関係者間での合意を「ドメイン・コンセンサス」と呼び、その形成には、トップマネジメントが周年記念の場などで、企業のあり方を簡潔に情報発信する必要がある。
【イ】
多角化している企業では、企業ドメインの決定は、競争戦略として差別化の方針を提供し、日常のオペレーションに直接関連する。
【ウ】
多角化せずに単一の事業を営む企業では、企業ドメインと事業ドメインは同義であり、全社戦略と競争戦略は一体化して策定できる。
【エ】
ドメインの定義における機能的定義は、エーベルの3次元の顧客層に相当する顧客ニーズと、それに対して自社の提供するサービス内容で定義する方法である。
【オ】
ドメインの定義における物理的定義は、エーベルの3次元の技術ではなく、物理的存在である製品によってドメインを定義する。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。ドメイン・コンセンサスは企業ドメインに関するものであるため、不適切です。ドメインコンセンサスの言葉は覚えておきましょう。
イ:不適切。競争戦略として差別化の方針を提供するのは企業ドメインになるため、不適切です。
ウ:適切。単一の事業を営む企業では、企業ドメインと事業ドメインは同義であるため、適切です。
エ: 不適切。機能的定義は、夢を売る仕事といった「コト」で定義する方法です。これに該当するエーベルの3次元定義は「顧客機能(F:Function)」であるため、不適切です。
オ:不適切:物理的定義は、化粧品といった「モノ」で定義する方法です。これに該当するエーベルの3次元定義は「独自能力・技術(T:Technology)」であるため、不適切です。
【過去問】平成27年度 第2問(ドメイン)
問題
Q.複数事業を営む企業の企業ドメインおよび事業ドメインの決定に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【ア】
企業ドメインの決定は、現在の活動領域や製品・事業分野との関連性とともに、将来の企業のあるべき姿を包含して経営理念を反映している。
【イ】
企業ドメインの決定は、全社戦略策定の第一歩として自社の存続のために外部の多様な利害関係者との間の様々な相互作用の範囲を反映している。
【ウ】
企業ドメインの決定は、多角化した企業において個々の事業の定義を足し合わせることではなく、企業ドメインに合わせて事業の定義を見直すことが重要である。
【エ】
事業ドメインの決定は、将来の事業領域の範囲をどう定義するかについて、企業が自らの相互作用の対象として選択した事業ポートフォリオの決定であり、特定の市場での競争戦略に影響を受ける。
【オ】
事業ドメインの決定は、日常的なオペレーションがルーティン化していたとしても、競争優位を持続するためには必要である。
解答・解説
正解:エ
ア:適切。企業ドメインの説明です。
イ:適切。企業ドメインの説明です。
ウ:適切。企業ドメインの説明です。
エ:不適切。事業ポートフォリオの決定は企業ドメインであるため、不適切です。
オ:適切:事業ドメインの説明です。
今回のおさらい
今回は「経営環境の分析・ドメイン」を勉強しました。
ドメインは頻出論点です。企業ドメインと事業ドメインが入れ替わって出題されることが多いので、キーワードは覚えてきましょう。
経営環境の分析・ドメイン
- 経営環境の分析手法には、PEST分析、3C分析、SWOT分析がある。SWOT分析とは、外部環境と内部環境について、プラス影響とマイナス影響から「機会」「脅威」「強み 」「弱み」に整理する手法である
- ドメインは「事業領域」のことで、3次元定義(顧客層、顧客機能、独自能力・技術)、物理的定義・機能的定義がある。ドメインは狭すぎると、顧客ニーズを逃すリスクが高まり、広すぎると、経営資源が分散化し、競争が激化しやすくなる特性がある
- ドメインの領域には、企業全体のドメインを考える「企業ドメイン」と、各事業部のドメインを考える「事業ドメイン」がある。企業ドメインで企業のアイデンティティや複数事業の関連性やシナジーを検討した後、各事業部での戦い方(事業ドメイン)を定義していく
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
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