企業経営理論【21】組織形態(カンパニー制組織、マトリクス組織、プロジェクト組織)

1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。

今回は「組織形態(カンパニー制組織、マトリクス組織、プロジェクト組織)」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。

出題範囲との関係

【経営戦略論】

【組織論】

経営組織の形態と構造
・経営組織の運営
・人的資源管理
・労働関連法規

【マーケティング】

今回の学習キーワード

  • カンパニー制組織
  • インベストメントセンター、バランスシート経営
  • 持株会社
  • マトリクス組織
  • プロジェクト組織、プロジェクトチーム、タスクフォース
  • リエゾン
目次

組織形態の全体図(再掲)

今回は前回勉強した「機能別組織」「事業部制組織」の続きになります。最初に、組織形態の全体像を振り返っておきましょう。

組織形態には、機能別組織と事業部制組織からなる「静態的組織」と、事業部制組織の欠点を補う流れで登場した「動態的組織」があります。

前回は、機能別組織と事業部制組織を勉強しましたので、今回は動態的組織を勉強していきましょう。

カンパニー制組織

カンパニー制組織とは「事業部を発展させて、疑似的に1つの会社とみなして社内分社化し、個々のカンパニーに人事、予算などの権限を委譲するとともに、経営責任を負わせる組織形態」をいいます。

事業部制組織が利益責任を負うプロフィットセンターであったのに対して、カンパニー制は投資責任まで追うインベストメントメンターの機能を持ちます。

また、各カンパニーに一定の資本金を割り当てる社内資本金制度を採用し、貸借対照表への責任を負うため、バランスシート経営とも呼ばれます。

カンパニー制組織のメリットは以下になります。

カンパニー制組織のメリット

  • 各カンパニーの経営責任が明確である
  • カンパニー毎に意思決定できるため、外部環境の変化に柔軟に対応できる
  • 各カンパニーに人事権があるため、事業戦略に応じた人材配置ができる
  • 各カンパニーのトップの起業家精神を養うことができ、将来の経営トップを養成できる

一方、カンパニー制組織のデメリットも覚えておきましょう。

カンパニー制組織のデメリット

  • カンパニー間でカニバリ―ゼーション(共食い)が生じる可能性がある
  • カンパニー間のシナジーが発揮しにくい
  • 完全に独立していないので、本社の意向を無視した経営はできない
  • 本社財務部門から資金調達するため、独立会社と比べて外部からの資金調達が難しい

持株会社

カンパニー制は疑似的な分社化ですが、独立した会社として切り離していくと「持株会社」になります。

持株会社とは「ホールディングス(持株会社)が、複数の事業会社(被持株会社)の株式を所有している組織形態」をいいます。

ホールディングスが全体の戦略策定と資源配分を行う一方、個々の企業の多様性・柔軟性を維持することができます。

持株会社の設立においては、規模の下限は設定されていないため、中小企業でも目的に応じて活用することができます。

持株会社のメリットは以下になります。

持株会社のメリット

  • 事業リスクの影響を分断できる(株式を売却して切り離せる)
  • 各事業の特性に応じた労働条件(給与、勤務時間、休日など)を自由に設定できる
  • コストと業績がより明確になる
  • 買収の際、買収先の企業文化を維持できる

一方、持株会社のデメリットも覚えておきましょう。

持株会社のデメリット

  • 被持株会社間で経営資源が重複する
  • 傘下企業の事業運営には関与することができない

ちなみに、2次試験では、既存組織から分社化するメリットを問う設問がありましたが、持株会社のメリットを活用すると、回答しやすくなります。

マトリクス組織

マトリクス組織とは「従来の機能別組織に、事業部制組織やプロジェクト組織を重複した格子状の組織形態」をいいます。

マトリクス組織は、人的資源や情報の共有による「範囲の経済性」の追求を目的としています。

ただし、1人の担当者が機能別組織と事業部制組織の両者の機能を求められるため、責任と権限が不明確になりやすく、コンフリクトや曖昧さを許容する組織文化が必要になります。

マトリクス組織のメリットは以下になります。

マトリクス組織のメリット

  • 人材の多重利用ができるため、範囲の経済が得られる
  • 人的資源や情報が共有できる
  • 外部環境の変化に対応しやすい

一方、マトリクス組織のデメリットも覚えておきましょう。

マトリクス組織のデメリット

  • 指揮命令系統が二重化する(ワンマンツーボス)
  • 管理者による権力争いが起こりやすい

プロジェクト組織

プロジェクト組織とは「既存の組織の中に、特定の課題に対して臨時的に編成された組織」をいいます。

部門間にまたがる課題が生じたり、分業化によるセクショナリズムを打破するために用いられます。

具体的には、プロジェクトチームとタスクフォースがあり、前者は比較的長期間にわたる課題、後者は比較的短期間の課題を解決する組織として呼ばれることが多いです。

特定の課題に集中する自己完結的な組織として、処理すべき情報量を減らせるメリットがあります。

関連用語として、リエゾンも覚えておきましょう。

リエゾンとは「部門間の連携のための特任の調整担当」です。組織横断的な機能を持ち、組織の情報処理力を向上させることができます。リエゾンとは橋渡しという意味です。

【過去問】平成28年度 第12問(組織形態)

問題

Q.機能別組織、事業部制組織、マトリックス組織の特徴に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
機能別組織は部門間で緊密な調整が必要な場合に有効であるが、安定した環境のもとで官僚制的な組織になるという短所がある。

【イ】
事業部制組織が有効に機能するためには、トップマネジメントが業務的意思決定から解放され、戦略的意思決定と管理的意思決定に専念できるようにする必要がある。

【ウ】
事業部制組織は複数の製品―市場分野を持つ企業が、範囲の経済を実現するのに適しているが、規模の経済を追求することは難しい。

【エ】
マトリックス組織は変化の速い環境で部門間の相互依存が高い場合に有効であるが、コンフリクトや曖昧さを許容する組織文化を持たないと効果的に機能しにくい。

解答・解説

正解:エ

ア:不適切。機能別組織は、分業化による専門性を追求する組織です。部門間の連携が十分とれなくなるデメリットが生じやすいため、不適切です。

イ:不適切。事業部制組織が有効に機能するには、トップマネジメントは管理的意思決定ではなく、戦略的意思決定に専念できることが必要であるため、不適切です。

ウ:不適切。事業部制組織は、製品―市場分野で事業部制を構成することが多く、範囲の経済を追及しているわけではないため、不適切です。

エ:適切。 選択肢の通りです。

【過去問】令和3年度 第15問(組織形態)

問題

Q.経営戦略に関連する組織の運営・設置に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
A.D.チャンドラー(A. D. Chandler)の「組織は戦略に従う」という命題に基づけば、事業の多角化が進んだ企業では事業部制組織が採用され、地理的拡大が進んだ企業では機能(職能)別組織が採用されることになる。

【イ】
機能(職能)別組織において、各機能部門長は事業戦略の策定・執行に関する最終責任を負っている。

【ウ】
事業部制組織とカンパニー制組織は類似した特性を有するが、両者の最大の違いは、事業部制組織では各事業部が企業内部の下部組織であるのに対して、カンパニー制組織では各カンパニーが独立した法人格を有している点にある。

【エ】
プロダクト・マネジャー制組織とは、研究開発型ベンチャー企業における事業部制組織のことであり、責任者であるプロダクト・マネジャーは、研究開発の成果に関する責任を有している。

【オ】
持株会社は、その設立に関して一定の制限が定められているものの、規模の下限は設定されていないことから、中小企業においても目的に応じて活用することができる。

解答・解説

正解:オ

ア:不適切。チャンドラーの「組織は戦略に従う」は正しいですが、地理的拡大が進んだ企業では地域別事業部制が採用されることになるため、不適切です。

イ:不適切。機能(職能)別組織では、各機能部門長は「日常的な業務」に関する権限が与えられるため、不適切です。

ウ:不適切。カンパニー制組織は、疑似的に1つの会社とみなして社内分社化した組織形態であり、独立した法人格を有しているわけではないため、不適切です。

エ:不適切。プロダクト・マネジャー制組織とは、特定の製品の開発・製造・販売を調整あるいは指揮する管理者を設置することで、職能部門の横断的な調整を図る制度を取り入れた組織であるため、不適切です。

オ:適切。選択肢の通りです。持株会社の設立において規模の下限は設定されていないため、中小企業でも活用することができます。

【過去問】平成29年度 第5問(組織形態)

問題

Q.日本企業には、社内分社化であるカンパニー制や持株会社を導入して戦略性を一層高めようとした企業が見られる。カンパニー制と持株会社に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
カンパニー制は、企業グループ内の個々の業態ごとに採用できるが、同一業界でのカンパニーごとの個別最適を許容すればカニバリゼーションの助長につながりうる。

【イ】
カンパニー制は、主要な事業の特定製品やブランドについての管理者をおき、その製品やブランドに関する戦略を策定し、販売活動を調整して統合する機能を持つ。

【ウ】
カンパニー制は、通常、多角化戦略によって事業領域を拡大する際、不確実性の高い新事業を切り離して法人格を持つ別会社として制度的に独立させ、本業や既存事業におよぼすリスクを軽減する。

【エ】
純粋持株会社は、株式の所有対象としている企業グループ全体の戦略策定と個々の事業の運営を統合して行えるメリットがあり、傘下の企業の経営戦略を標準化し、集中的に管理する制度である。

【オ】
純粋持株会社は、通常、企業グループ全体の効率的な資源配分が可能となり、雇用形態や労働条件の設定を標準化する機能を持つ。

解答・解説

正解:ア

ア:適切。選択肢の通りです。

イ:不適切。特定製品やブランドの管理者を置くだけならば、事業部制組織でも十分であるため、カンパニー制の説明としては不適切です。

ウ:不適切。カンパニー制ではなく、持株会社のことを記述しているため、不適切です。

エ:不適切。持株会社は、傘下企業の経営戦略の多様性・柔軟性を維持することが目的であるため、不適切です。

オ:不適切。持株会社は、各事業の特性に応じた労働条件を自由に設定できるため、不適切です。

【過去問】平成20年度 第11問(3)(組織形態)

問題

Q.企業の規模や経営戦略、環境条件などさまざまな要因によって、組織が処理すべき情報の量や質が異なるため、それに応じて機能別部門組織(functional organization)、事業部制組織(divisional organization)、マトリックス組織(matrix organization)など、異なる組織構造をデザインする必要がある。これに関して、下記の設問に答えよ。

(設問3)
機能部門-事業部門からなる恒常的なマトリックス組織に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】
マトリックス組織が有効に機能するためには、複数の命令系統に柔軟に対応し、コンフリクトを創造的に解決する組織文化の裏付けが必要である。

【イ】
マトリックス組織では、機能マネジャーと事業マネジャーが同じ内容の権限を持つので、従業員は2人の上司の管理下におかれ高いストレスを感じる。

【ウ】
マトリックス組織では、主要な権限を委譲された事業マネジャーと機能マネジャーのコンフリクトが発生しやすいので、トップマネジメントの情報処理負担は大きくなる。

【エ】
マトリックス組織は、環境変化の速い複数の非関連事業に多角化した企業が、複数の事業部にまたがる横断的調整機能を導入したものである。

【オ】
マトリックス組織は、現場での事業感覚が重要である組織に導入すると事業活動を制約してしまうため、主に本社機構に導入される傾向がある。

解答・解説

正解:ア

ア:適切。選択肢の通りです。

イ:不適切。機能マネジャーには機能に関する権限、事業マネジャーには事業に関する権限が付与されるため、不適切です。

ウ:不適切。前半は正しい記述ですが、部門間調整はマネジャー間で調整するため、トップマネジメントの情報処理負担は大きくなるとは限らないため、不適切です。

エ:不適切。マトリックス組織は、環境変化が速い複数の「関連事業」に多角化した企業のほうが有効に機能しやすいため、不適切です。

オ:不適切。マトリックス組織は、現場の迅速な環境変化に対応するために導入されるため、不適切です。

今日のおさらい

今回は「組織形態(カンパニー制組織、マトリクス組織、プロジェクト組織)」を勉強しました。

各組織のメリット・デメリットは頻出ですので、しっかり理解しておきましょう。

組織形態(カンパニー制組織、マトリクス組織、プロジェクト組織)

  1. カンパニー制組織とは「疑似的に1つの会社とみなして社内分社化し、個々のカンパニーに人事、予算などの権限を委譲するとともに、経営責任を負わせる組織形態」。インベストメントセンターとして投資責任を負う。
  2. マトリクス組織とは「従来の機能別組織に、事業部制組織やプロジェクト組織を重複した格子状の組織形態」。人材の多重利用ができるため、範囲の経済が得られたり、外部環境の変化に対応しやすいメリットがあるが、指揮命令系統が二重化するワンマンツーボスのデメリットがある。
  3. プロジェクト組織とは「既存の組織の中に、特定の課題に対して臨時的に編成された組織」。比較的長期間にわたるものをプロジェクトチーム、比較的短期間のものをタスクフォースという。

中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。

できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。

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この記事を書いた人

中小企業診断士(令和2年度合格)

令和元年度、1次試験合格(通信講座)
その年の2次試験はあえなく不合格。
翌年は3ヶ月の完全独学で2次試験に合格。

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