1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「モチベーション理論(前半)」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
【組織論】
・経営組織の形態と構造
・経営組織の運営
・人的資源管理
・労働関連法規
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- テイラー、科学的管理法、経済人モデル
- 人間関係論、インフォーマル組織、社会人モデル
- マズローの欲求5段階説(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)
- アルダファのERG理論
- マクレガーのX理論・Y理論、目標管理制度(MBO)
- ハーズバーグの動機づけ・衛生理論、職務充実
- アージリスの未成熟・成熟理論、職務拡大
- マクレランドの達成動機説
経営管理論の歴史
今回から組織のソフト面に関する「ミクロ組織論」に入ります。最初に、経営管理論の歴史を勉強しておきましょう。
テイラーの「科学的管理法」
経営管理論は、20世紀初頭の米国のテイラーが提唱した「科学的管理法」に始まります。
当時の米国の工場では、作業者の一日あたりの作業量が明確に決まっていない「成り行き管理」が一般的でした。加えて、働くほど給料が上がる出来高払いのはずが、経営者が勝手に賃率を変更して手取りが変わらないようにすることが横行した結果、「組織的怠業」も発生していました。
工場の技師だったテイラーは、これを改善したいと考え、時間研究と動作研究をもとに、1日の標準作業量である「課業」を科学的に設定し、これを達成した人には高い給料を、達成できなかった人には低い給料を支払う「課業管理」を提唱しました。
時間研究(標準時間の設定)と動作研究(標準動作の設定)は、経営工学(IE)の出発点になりました。
テイラーの課業管理により、工場の生産性は大きく向上しましたが、「労働者を機械のように扱っており、人間的要素を無視している」との批判も受けました。
このような人間観を「経済人モデル」と呼びます。
メイヨーとレスリスバーガーの「人間関係論」
テイラーの科学的管理法の限界を踏まえ、労働者の人間性を重視したのがメイヨーとレスリスバーガーの「人間関係論」です。
これは1924年に始まったホーソン実験がきっかけでした。
この実験の目的は、テイラーの科学的管理法をもとに、生産性を高める作業条件を見つけるための実験でしたが、劣悪な作業条件に設定しても、生産性が高いことが生じてしまい、「作業条件よりも職場の人間関係などによって労働者の生産性が向上する」ことを発見しました。
また、組織には、公式組織(フォーマル組織)、非公式組織(インフォーマル組織)があり、「インフォーマル組織が生産性に大きく影響する」ことを発見しました。
このような人間観を「社会人モデル」といいます。
この人間関係論は、行動科学(モチベーション理論、リーダシップ論)として大きく発展していきます。
モチベーション理論の体系図
モチベーション理論とは「働く人のやる気・モラールをどのように高めていくのか方法論」をいいます。
モチベーション理論は、(1)内容説(どういった欲求構造があり、その欲求をどうやって満たすのか)、(2)過程説(どのようなプロセスで動機づけられるのか)、(3)内発的動機づけ理論(人間の内面に動機づけ要因が存在する)に分かれます。
モチベーション理論の前半では「内容説」について、解説していきます。
モチベーション理論(内容説)
モチベーション理論の内容説を理解するには、マズローの「欲求5段階説」をベースに、他の理論を関連づけるのがポイントです。
マズローの「欲求5段階説」
マズローは、人間の欲求を5つの階層に分類しました。
マズローの「欲求5段階説」
- 生理的欲求:水、食べ物、睡眠などに対する欲求
- 安全欲求:危険や恐怖を回避したい欲求
- 社会的欲求:集団への帰属や連帯感を求める欲求
- 承認欲求(自我の欲求):周囲から認められたい欲求
- 自己実現欲求:自分のありたい姿になりたい欲求
また、低次の欲求が満たされると、高次の欲求が出現し、不可逆的に変化していくと主張しています。
つまり、低次の欲求と高次の欲求は同時には発生しないということです。
アルダファの「ERG理論」
アルダファは、マズローの欲求5段階説を修正し、「存在(E)」「関係性(R)」「成長(G)」の欲求段階説を提唱しました。
アルダファの「ERG理論」
- 存在欲求(Exstence)
- 人間として存在するための低次欲求
- マズローの欲求段階では「生理的欲求」「安全欲求」に相当する
- 人間関係の欲求(Relatedness)
- 他者との人間関係を持ち続けたいという欲求
- マズローの欲求段階では「社会的欲求」にする
- 成長欲求(Growth)
- 人間に本来備わっている成長を続けたいという高次欲求
- マズローの欲求段階では「承認欲求(自我の欲求)」「自己実現欲求」に相当する
マズローとの違いは、3つの欲求が同時に活性化する可能性がある点、上位の欲求が満たされない場合は、下位の欲求が再び高まるとする点です。
マクレガーの「X理論・Y理論」
マクレガーは低次の欲求によるX理論と、高次の欲求によるY理論の人間観を用いて、モチベーション理論を展開しました。
マクレガーの「X理論・Y理論」
- X理論
- 人間は仕事が嫌いであり、できれば仕事したくない(=性悪説)
- 強制や命令、報酬などによる管理(=アメとムチによる管理)が必要と主張
- Y理論
- 人は仕事が嫌いではなく、自分が設定した目的のためには、自ら進んで努力する(=性善説)
- 目標管理制度(MBO)によって動機づけすることが必要
マクレガーは、X理論(アメとムチによる管理)ではなく、Y理論(目標管理制度(MBO))による動機づけが必要であると主張しました。
ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」
ハーズバーグは、仕事に満足をもたらす要因と不満をもたらす要因は異なるとして、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と提唱しました。
ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」
- 衛生要因
- 会社の方針、管理方法、労働環境、作業条件(金銭・時間・身分)など
- これらの不満を解消しても、モラール(やる気)は高まらないと主張
- 動機づけ要因
- 仕事の達成感、やりがいのある仕事、仕事そのもの、責任、昇進など
- これらの要因が動機づけには必要と主張
ハーズバーグは、モラール・やる気を向上させるためには、衛生要因よりも動機づけ要因を重視すべきであり、そのための施策として「職務充実(ジョブ・エンリッチメント)」を提唱しています。
職務充実とは、現在の仕事に計画立案など違うレベルの仕事を任せることで、質的な充実(垂直的な拡大)を図ることをいいます。
また、必ずしも不満足(=衛生要因)を解消せずとも、動機付け要因を刺激することで、モチベーションを高めることができることも覚えておきましょう。
アージリスの「未成熟・成熟理論」
アージリスは、マズローの欲求5段階説を基礎として、人格が未成熟から成熟していく段階で、自己実現の欲求によって受動的行動から能動的な行動へと変化していくと主張しました。
また、アージリスは成熟段階に向かう施策として「職務拡大(ジョブ・エンラージメント)」を提唱しました。
職務拡大とは、職務を水平的に拡大させる(仕事のレベルは変わらない)ことで、量的な充実(水平的な拡大)を図ることをいいます。その結果、多能工化の育成を促進できます。
ハーズバーグの職務充実(=質的充実、垂直的拡大)とアージリスの職務拡大(=量的充実、水平的拡大)はワンセットで覚えておきましょう。
マクレランドの「達成動機説」
マクレランドは、達成動機(より効率的に仕事をしようとする欲求)、権力動機(支配や影響を及ぼす欲求)、親和動機(親密関係を維持しようとする欲求)の3つの欲求階層説を提唱しました。
また、高い達成動機を持つ人の特徴として、以下の3つの特性を指摘しています。
高い達成動機を持つ人の特徴(マクレランドの「達成動機説」)
- 何事も自分の手でやることを望み、
- 中程度(50%程度)のリスクを好み、
- 自分が行ったことの結果に迅速なフィードバックを欲しがる
【過去問】平成29年度 第16問(モチベーション理論)
問題
Q.モチベーション理論に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
A. マズローの欲求段階説は、多様な欲求が同時に満たされることによって、個人のモチベーションが階層的に強まっていくことを提唱した。
【イ】
D. マクレガーの X 理論と Y 理論は、個人は肯定的側面と否定的側面の両面を併せ持つことを示し、状況に応じてモチベーションを刺激する組み合わせを変化させる必要性があることを提唱した。
【ウ】
D. マクレランドの三欲求理論によれば、報酬や社会的な成功よりも個人的な達成感を強く求める人は、自分の能力を超えたチャレンジングな仕事を好み、他者と親和的な関係を結ぶリーダーになろうとする傾向を持つことを提唱した。
【エ】
F. ハーズバーグの二要因理論では、従業員が不満足を知覚する衛生要因と、満足を知覚する動機づけ要因を独立した要因として捉え、必ずしも不満足を解消せずとも、モチベーションを高めることができることを提唱した。
【オ】
V. ブルームの期待理論によれば、モチベーションは将来に対する合理的な計算として捉えられ、特定の努力によって実現される目標の期待値と、目標を実現することによって得られる報酬の期待値の総和として把握できることを提唱した。
解答・解説
正解:エ
ア:不適切。マズローの欲求段階説は、多様な欲求が同時に満たされることを想定していないため、不適切です。
イ:不適切。マクレガーは、X理論ではなく、Y理論による動機づけが必要と主張しており、組み合わせではないため、不適切です。
ウ:不適切。マクレランドが提唱したのは「達成動機説」であるため、不適切です。
エ:適切。 選択肢の通りです。
オ:不適切。期待理論は報酬と期待値の総和(足し算)ではなく、掛け算であるため、不適切です。
【過去問】平成27年度 第17問(職務拡大)
問題
Q.職務再設計とは、職務を通じた動機づけを目的とした管理方法の総称であるが、その方法のひとつである職務拡大に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
新たな上司や同僚との調整コストが発生するというデメリットがある。
【イ】
個人が行うタスクの数や種類を増やし、職務に多様性を持たせる。
【ウ】
仕事のやりがいが感じられなくなった場合、同一レベルで同様のスキルを要する職務に配置換えを行う。
【エ】
職務の計画、実施、評価を、自分自身で管理できるようにする。
【オ】
複数の職務を横断させることでスキルの拡張を図る。
解答・解説
正解:イ
職務拡大とは、職務を水平的に拡大させる(仕事のレベルは変わらない)ことで、量的な充実(水平的な拡大)を図ることでした。その結果、多能工化の育成を促進することができます。この定義に照らし合わせると、イが正解になります。
ウは「配置換え」、オは「職務を横断させる」と、断定的な表現ですが、必ずしもそうとは言い切れないため、不適切になります。
今日のおさらい
今回は「モチベーション理論(前半)」を勉強しました。
モチベーション理論は頻出論点なので、理論と施策は必ず覚えておきましょう。
モチベーション理論(前半)
- モチベーション理論は(1)内容説、(2)過程説に分かれる。
- 内容説は、マズローの「欲求5段階説」がベースになる。欲求には「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求(自我の欲求)」「自己実現欲求」の5段階があり、低次の欲求が満たされると、高次の欲求が出現し、不可逆的に変化していくと主張した。
- アルダファは「存在」「関係性」「成長」の3つの欲求が同時に活性化する「ERG理論」、マクレガーは「X理論・Y理論」を提唱し、Y理論による目標管理制度を主張した。また、ハーズバーグは「動機づけ・衛生理論」を通じて【職務充実】、アージリスは「未成熟・成熟理論」を通じて【職務拡大】を提唱した。
- マクレランドは高い達成動機を持つ人は、(1)何事も自分の手でやることを望み、(2)中程度(50%程度)のリスクを好み、(3)自分が行ったことの結果に迅速なフィードバックを欲しがると指摘した。
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
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