中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「人的資源管理(全体像、雇用管理)」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
【組織論】
・経営組織の形態と構造
・経営組織の運営
・人的資源管理
・労働関連法規
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- 日本的経営の三種の神器(終身雇用制、年功序列制、企業別労働組合)
- 新卒採用、中途採用
- RJP(Realistic job preview)
- 垂直的異動、垂直的異動
- ジョブローテーション、社内公募制度、キャリア開発制度(CDP)、複線型人事制度
- 継続雇用制度(勤務延長制度、再雇用制度)
- 早期退職者優遇制度(選択定年制)、役職定年制度
試験対策
1次試験では出題がほぼありません。2次試験では必須の知識になります。
人的資源管理の全体像
人的資源管理とは「企業戦略を達成するために、必要となる人材の資質・能力を予測し、その条件を満たす人材を確保することを目的とした活動」を言います。
人的資源管理は、(1)雇用(採用・配置)、(2)評価、(3)報酬、(4)能力開発の4つから構成されます。これらの要素はそれぞれ密接に関係しています。
人的資源管理を通じて、従業員の知識や技能の向上(=労働能力の向上)、従業員と組織の目標の一致(=労働意思の向上)を実現していきます。
欧米型人事制度と日本型人事制度
人的資源管理の細かい説明に入る前に、「日本型人事制度」の特徴を「欧米型人事制度」と比較しながら確認しておきましょう。
日本型人事制度は「能力主義的人事制度」と呼ばれ、人に職務をつけるのが特徴です。
人が職務を遂行する能力である【職能】がベースとなり、「職能資格制度」「職能給」といった等級制度や報酬制度が整備されていきました。
一方、欧米型人事制度は「職務主義的人事制度」と呼ばれ、職務が先にあり、その仕事に人をつけるのが特徴です。
人が担うべき仕事である【職務】がベースとなり、「職務等級制度」「職務給」といった等級制度や報酬制度が整備されていきました。
日本的経営の三種の神器
戦後の日本企業の成長を支えたものに「日本的経営の三種の神器」があります。
現在は崩壊しつつありますが、基本的な考え方は理解しておきましょう。
日本的経営の三種の神器
- 終身雇用制
- 雇い入れた従業員にできるだけ長期にわたって(原則、定年まで)雇用を保証する慣行
- 生活の安定化、企業への忠誠心向上、長期的な人材育成に貢献
- 年功序列制
- 賃金・昇進・昇給などの処遇の基準を、学歴・年齢・勤続年数などにおき、勤続年数の長期化とともに、職位や賃金が上昇する仕組み
- 生活設計を容易にする一方、若い優秀な人材のモラール低下を招きやすい
- 企業別労働組合
- 企業ごとに労働組合が組織化
- 労使協調体制での推進に貢献
雇用管理
雇用管理とは、「人材を組織に加える【採用】、人材の処遇を変える【配置・異動】、人材が組織から去る【退職】に関する管理活動」のことを言います。
採用管理
採用管理では、最初に、企業活動に必要となる適正な従業員数を事前に決定し、その確保のための「要員計画」を策定します。
要員計画を踏まえて、新卒採用や中途採用、職種別採用などを実施していきます。
ここでは、新卒採用と中途採用のメリット・デメリットを理解しておきましょう。
新卒採用のメリット・デメリット
- 新卒採用のメリット
- 組織文化の継承やノウハウが蓄積しやすい
- 将来の幹部候補となるコア人材を育成できる
- 新事業に関する柔軟な発想が得られる
- 人件費を抑制できる
- 新卒採用のデメリット
- 教育コストがかかる
- 教育に時間がかかり、即戦力は望めない
- 採用までの選考プロセスが長くコストを要する
中途採用のメリット・デメリット
- 中途採用のメリット
- 同業種で働いた経験があれば、即戦力になる
- 自社にない知識やノウハウ、人脈を獲得できる
- 研修コストを抑えられる
- 中途採用のデメリット
- 会社の方針に従わず、自分のやり方に固執してしまう
- 企業文化になじみにくい
- また転職してしまう可能性がある
新卒採用では、人材のミスマッチを防ぐために、インターンシップやRJP(Realistic job preview)も重要になっています。
インターンシップとは「学生が企業において、一定期間の就業体験を行う」ことを言います。
RJP(Realistic job preview)とは、「よい部分も悪い部分も含め、ありのままの企業実態を求職者に情報提供する」ことを言います。
また、採用した人の雇用形態には「正規雇用」と「非正規雇用」があります。
試験対策では、非正規雇用のメリット・デメリットを理解しておきましょう。
非正規雇用のメリット・デメリット
- 非正規雇用のメリット
- 人件費を変動費化できる(コスト削減)
- 企業の状況に応じて雇用調整しやすい
- 多様な就業ニーズに対応できる
- 非正規雇用のデメリット
- 知識や技能が蓄積しにくい
- モラール・忠誠度が低下しやすい
- 機密事項の漏洩が発生しやすくなる
非正規雇用のデメリットへの対応策としては、優秀な非正規社員の正規社員化などがあります。
また、労働基準法が改正され、同一企業において、正社員と非正規社員の間で不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇規定」が明確化されています。
有期雇用の労働者も差別的取扱いを禁止する均等待遇規定の対象になっている点を抑えておきましょう。
配置・異動
採用した人材は、配置・異動を通じて、従業員のモチベーションや能力の向上を図っていきます。その結果、退職の防止にもつながります。
人事異動(垂直的異動、水平的異動)
人事異動には「垂直的異動」と「水平的異動」があります。
垂直的異動には、(1)役職の上昇・低下である「昇進・降職」、(2)職能資格制度の資格等級の上昇・低下である「昇格・降格」があります。
一方、水平的異動には、(1)職種や勤務地が変わる「配置転換」、(2)異なる企業で勤務する「出向」があります。
垂直的異動と水平的異動
- 垂直的異動
- 昇進・降職
- 「役職」の上昇・低下のこと
- 役職には定員があり、降職も発生する
- 昇格・降格
- 職能資格制度の「資格等級」の上昇・低下のこと
- 原則、定員がなく、降格も発生しない
- 昇進・降職
- 水平的異動
- 配置転換
- 職種転換:異なる職種に異動すること
- 勤務地転換:同一職種で勤務地を変更すること
- 出向
- 在籍出向:異動元の企業との雇用契約は維持したまま出向すること
- 移籍(転籍)出向:異動元の企業との雇用契約を解消し、異動先と新たに雇用契約を締結すること
- 配置転換
配置・異動のための施策
また、配置・異動のための施策には、以下があります。
配置・異動のための施策
- ジョブローテーション
- 定期的、計画的に配置を変えて、様々な職務を経験させる
- ゼネラリストを養成できるが、業務の専門化は限定的
- 社内公募制度
- 企業が必要とするポストや職種などの条件を社員に公開し、希望者を公募する制度
- 直属上司を経由しないのが一般的
- キャリア開発制度(CDP)
- 個々の従業員の希望と企業の人材ニーズから、長期的な視点でキャリア育成プランを作成し、それに沿って異動や教育訓練を行う制度
- 複線型人事制度
- 全国社員や地域限定社員など、複数のキャリアコースを設定して、多様な人事管理を行う
退職
退職には「定年退職」と「自主退職」がありますが、雇用管理では「定年退職」が中心となります。
試験対策としては、「定年退職」と「組織の新陳代謝促進を目的とした退職制度」を理解しておきましょう。
定年退職
高年齢者等雇用安定法では、定年を定める場合、60歳が定年の下限とする「60歳定年制」を定めています。ただし、継続雇用制度を導入していない場合は、定年退職は65歳以上になります。
なお、2021年から、70歳までの継続雇用が努力義務になりました。
また、定年を超えて、同一企業に働くための制度として「継続雇用制度」があります。
継続雇用制度
- 勤務延長制度
- 定年年齢はそのままとし、定年年齢を迎えた後も継続して雇用する制度
- 再雇用制度
- 定年年齢に達した者をいったん退職させ、改めて雇用する制度
組織の新陳代謝促進を目的とした退職制度
環境変化が大きい現代では、組織の新陳代謝促進を目的とした退職制度を採用する企業が増えています。
具体的には、「選択定年制」と「役職定年制度」を理解しておきましょう。
組織の新陳代謝促進を目的とした退職制度
- 早期退職者優遇制度(選択定年制)
- 定年前に退職を望む社員に対して、優遇措置を設けて自主的な退職を促す制度
- 人件費削減のために行われる「希望退職」と異なり、福利厚生の一環で恒常的に運用されることが一般的
- 役職定年制度
- 一定年齢になると管理職などの役職を外れる制度
- 一定の年齢で一律に役職を外れる場合と、役職別に役職定年が定められている場合がある
【過去問】令和元年度 第21問(日本的人事制度)
問題
Q.多くの日本企業で利用されてきた職能資格制度に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
社内等級ごとに求められる職務遂行能力の定義や、その定義に基づいた実際の能力評価は、社外で普及しているさまざまな職業資格の体系に準拠して行われる。
【イ】
従業員の職務遂行能力の上昇が認められれば、たとえそれに見合う上位階層のポストや職務が社内で用意できなくても、社内等級は上げることができる。
【ウ】
職種ごとに職務遂行能力の定義が行われているため、従業員の職種をまたぐ異動、ひいてはゼネラリスト育成には適さない。
【エ】
職務遂行能力は職務の経験年数に応じて上昇するため、職能資格制度は年功主義的な人事管理の基盤となる。
解答・解説
正解:イ
ア:不適切。職能資格制度は、企業ごとに定められた定義に基づき運用されているため、不適切です。
イ:適切。選択肢の通りです。
ウ:不適切。職能資格制度は、人が職務を遂行する能力である職能がベースとなっており、職種をまたぐ異動にも適しているため、不適切です。
エ:不適切。年功序列制度に関する内容であるため、不適切です。
【過去問】平成29年度 第23問(雇用管理)
問題
Q.契約社員やパートタイマー、派遣労働者、請負労働者など、正社員以外で組織に雇用される労働者は、広く非正社員と呼ばれてきたが、近年は定型的・補助的な職務にとどまらず、正社員と同じ責任を持って職務に従事する質的基幹化が起こっている。質的基幹化に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【ア】
機密事項の漏洩が発生しやすくなっている。
【イ】
職場の一体感が低下しやすくなっている。
【ウ】
正社員との賃金格差に非正社員が不満を感じやすくなっている。
【エ】
長期的な視点から見た正社員の育成が困難になっている。
【オ】
非正社員は正社員に期待されている役割を担うことができるようになっている。
解答・解説
正解:オ
ア:適切。選択肢の通りです。
イ:適切。選択肢の通りです。
ウ:適切。選択肢の通りです。
エ:適切。選択肢の通りです。
オ:不適切。完全に間違いとは一般的には、正社員と非正社員に期待される役割は異なるため、不適切です。
【過去問】平成28年度 第19問(雇用管理)
問題
Q.労働市場に対して組織の状況や特色をアピールする際に、応募者に好感される情報を強調するのではなく、ときには好感されにくい現実をありのままに伝えようとする広報戦略を、RJPªRealistic Job Preview«と呼ぶ。RJP の効果として、最も不適切なものはどれか。
【ア】
自己の能力を見つめなおさせ、自己選抜によって応募を辞退させる効果。
【イ】
職務や職場への初期適応を円滑にする効果。
【ウ】
入社後の離職を回避させる効果。
【エ】
入社前に組織に対して抱く期待や、やる気を引き上げる効果。
解答・解説
正解:エ
RJP(Realistic job preview)とは、「よい部分も悪い部分も含め、ありのままの企業実態を求職者に情報提供する」ことを言います。応募者の期待値をコントロールしながら、人材のミスマッチを防ぐ効果があります。その観点から検討すると、選択肢エが正解になります。
今回のおさらい
今回は「人的資源管理(全体像、雇用管理)」を勉強しました。
人的資源管理は、1次試験ではほとんど出題されないですが、2次試験では必須で活用します。
人的資源管理(全体像、雇用管理)
- 人的資源管理は、(1)採用・配置、(2)評価、(3)報酬、(4)能力開発から構成される。人的資源管理を通じて、従業員の知識や技能の向上、従業員と組織の目標の一致を実現していく。
- 採用管理には、企業文化の継承や将来の幹部候補を採用する「新卒採用」と即戦力を求める「中途採用」がある。採用した人材は「ジョブローテーション」「社内公募制度」「キャリア開発制度(CDP)」「複線型人事制度」をもとに配置・異動していく。
- 定年後も同一企業で働く制度である継続雇用制度には、定年年齢を達した後も継続して雇用する「勤務延長制度」、定年年齢でいったん退職し、改めて雇用する「再雇用制度」がある。
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
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