中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「人的資源管理(人事評価、報酬、能力開発)」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
【組織論】
・経営組織の形態と構造
・経営組織の運営
・人的資源管理
・労働関連法規
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- 評価バイアス(ハロー効果、中央化傾向、寛大化傾向、論理的誤差、対比誤差、逆算化傾向)
- 考課者訓練、自己申告制度、多面評価(360度評価)
- 成果主義
- コンピテンシーモデル(コンピテンシー評価)
- 目標管理制度(MBO)
- 社内表彰制度
- 賃金体系(定期給与、賞与、所定内賃金、所定外賃金、基本給、諸手当)
- 定期昇給、ベースアップ
- 年俸制
- 従業員持株制度、ストックオプション
- OJT、Off-JT、自己啓発
試験対策
「人事評価(人事考課)」が定期的に出題されています。
評価制度(人事評価・人事考課)
人事評価(人事考課)とは、「従業員の知識、職務遂行能力、適性、業績などを一定の基準に基づいて評価すること」を言います。
評価結果は、処遇・報酬の決定、能力開発、キャリアパスの計画などに活用されるため、人事評価は人的資源管理の中心に位置します。
人事考課は、能力評価、情意評価、業績評価の3つの視点から評価することが一般的です。
仕事の流れと連動して、原因となる「職務遂行能力を評価する能力評価」、プロセスとして「意欲や態度を評価する情意評価」、成果を「職務遂行度で評価する業績評価」として理解しておきましょう。
人事考課の課題・対応策
人事考課には「透明性」「納得性」「公平性」が求められますが、人が評価する以上、限界があります。これを「評価バイアス」と言います。
代表的な評価バイアスには、以下のバイアスがあります。
評価バイアス
- ハロー効果
- 何かある特定の項目が際立っている場合、それに引っ張られて、他の評価が影響されてしまうこと
- 中央化傾向
- 厳しい優劣の判断を回避して、評価が中心に集まってしまうこと
- 寛大化傾向
- 評価者の自信欠如から、評価を甘くつけてしまうこと
- 論理的誤差
- 事実を十分に確認せずに、推論によって評価を行うこと
- 例:TOEIC900点 → 英語のコミュニケーションは完璧だと認識する
- 対比誤差
- 自分の得意分野/不得意分野かで、評価が変わってしまうこと
- 逆算化傾向
- 最終的な評価を先に決め、逆算して各項目の評価を調整すること
評価バイアスは避けることができないですが、対応策を講じることで、そのバイアスを減らすことが重要です。
評価バイアスに対する対応策
- 考課者訓練
- 考課者自身の能力を向上させる
- 自己申告制度
- 人事考課に、被考課者を参画させる
- 多面評価(360度評価)
- 上司以外(取引先も含む)のメンバーからの評価も加える
人事評価の基準変化と成果主義
日本企業では、人事評価における評価の基準が時代とともに変わってきました。
高度成長期は、賃金・昇進・昇給などの処遇の基準を、学歴・年齢・勤続年数などに置いた「年功序列制」が中心でした。
安定成長期になると、年功序列制を修正した「能力主義(職能資格制度)」が導入されました。ただし、実績よりも「こういう能力があるだろう」と推測して運用することが中心でした。
現在では、能力主義から「成果主義」に変化しています。
成果主義とは、「仕事の成果をもとに、賃金や賞与、昇格などを決定する仕組み」を言います。
ここでは、成果主義のメリット・デメリットを理解しておきましょう。
成果主義のメリット・デメリット
- 成果主義のメリット
- 若手を中心とした組織の活性化が期待できる
- 若手のモラールが向上する
- 優秀な人材の流出を防止できる
- 総人件費の適正化が図れる、
- 成果主義のデメリット
- 短期的利益志向になりがち/個人主義になる
- 社歴の長い社員のモラールが低下する
- 協調性・帰属意識が低下しやすい、
成果主義は、短期志向になりがち、個人主義に走りやすい、ベテラン社員のモラールが低下するなどのデメリットがあるため、慎重に導入する必要があります。
成果主義導入時の留意点
- 公平性や透明性を確保する
- 部門間連携や長期視点の活動を評価する
- 評価者・被評価者の意思疎通の機会を持つ
- 基準や手続きに関する十分な説明を行う
人事評価の関連キーワード
人事評価に関連して、「コンピテンシーモデル(コンピテンシー評価)」「目標管理制度(MBO)」「社内表彰制度」を抑えておきましょう。
コンピテンシーモデル(コンピテンシー評価)
コンピテンシーとは、「高い業務成果を発揮する個人の行動特性」のことを言います。
高い業務成果を発揮する個人の行動特性をベンチマークして人事評価し、採用や昇格、教育、評価などに活用していくことを「コンピテンシー評価」と言います。
コンピテンシーは、パーソナリティや知的能力なども含めた職務遂行能力に焦点を当てており、成果や業績はコンピテンシーに含まれない点に注意しましょう。
目標管理制度(MBO)
目標管理管理(MBO)とは、「従業員一人一人に個別の課題や目標を組織目標に基づき、その上司と一緒に決定し、決められた期間内にその成果を評価する制度」のことを言います。
従業員の創意工夫によるモチベーション向上、上司と部下の間で十分なコミュニケーションが生まれるメリットがある一方で、わざと低い目標を立てる、統一的な評価が困難である点がデメリットになります。
導入する際は、(1)できる限り「測定可能」「達成可能」な目標を立てる、(2)組織からの客観的なニーズで設定する、などに留意することが必要です。
社内表彰制度
社内表彰制度とは、「優れた能力や成果を上げた社員を表彰する制度」のことを言います。
非正規社員にも活用して、モラール向上を図ることが重要です。
報酬制度
人事評価(人事考課)に基づき、従業員の報酬が決定されます。
報酬制度では「賃金体系・形態」と「報酬制度」について理解しておきましょう。
賃金体系
賃金は「定期給与」「賞与など」から構成されます。
定期給与は、(1)所定内賃金(毎月きまって支給する賃金のうち、所定外賃金に該当しない賃金)、(2)所定外賃金(毎月きまって支給する賃金のうち、所定外労働時間の労働に対して支給する賃金)に分類されます。
所定内賃金は、同一の賃金体系が適用される従業員全員に支払われる「基本給」と、受給資格のある従業員に支給される「諸手当」に分離されます。
基本給は、賃金の計算および支払い形態に応じて、「職能給」「職務給」などがあります。また、諸手当は、職務と関連する勤務手当、生活補助的な生活手当、その他手当に分かれます。
定期昇給とベースアップ
賃金の上昇には、「定期昇給」と「ベースアップ」があります。この違いを理解しておきましょう。
定期昇給とは「賃金表に基づいて個人別に実施される昇給」のことで、一般的な昇給のイメージです。具体的には、査定昇給と自動昇給があります。
一方、ベースアップとは「賃金表そのものを書き換えること」を言います。例えば、消費者物価の上昇に対して調整するために、賃金表そのものを書き換えるため、全従業員が対象になります。
賃金形態と年俸制
賃金形態とは、賃金の計算および支払い形態のことを言います。
「時間」と「成果」の切り口から、以下の賃金形態があります。
賃金形態(賃金の計算および支払い形態)
- 「時間」の切り口
- 時間給、日給、週給、月給、年俸
- 「成果」の切り口
- 出来高給、歩合給、業績給
上記の中で、年俸制とは「1年を単位として、年間の賃金額を決定する制度」のことを言います。
年俸制の導入理由には、以下があります。
年俸制の導入理由
- 成果主義の徹底(個人の業績評価の明確化)
- 経営に対する参加意識を持たせる
- 従業員のインセンティブ強化
- 賃金総額の上昇を避ける
- 従業員のモラール向上
その他報酬制度
上記以外の報酬制度として、(1)株式を使ったインセンティブ(従業員持株制度、ストックオプション)、(2)福利厚生についても理解しておきましょう。
従業員持株制度
従業員持株制度とは、「従業員が勤務先の会社の株式を取得することについて、会社が何らかの便宜や経済的援助を与え、これを奨励する制度」のことを言います。
ストックオプション
ストックオプションとは、「会社が発行する株式をあらかじめ定めた価格で取得する権利(新株予約権)を付与する制度」のことを言います。
優秀な人材の確保、モラール向上などに有効である一方、付与されない者のモラール低下、株価が上昇しなかった場合のモラール低下があるデメリットがあります。
福利厚生
福利厚生とは、「賃金など基本的な労働条件とは別に、企業が従業員やその家族の福祉向上のために行う制度」のことを言います。
福利厚生には、「法定福利制度(健康保険、介護保険などの保険料の負担)」と「法定外福利制度(住宅補助、社宅・寮の提供、慶弔見舞金、レクリエーションなど)」があります。
福利厚生も立派な報酬制度であることを理解しておきましょう。
能力開発
能力開発とは、文字通り、従業員の能力を高めていくことです。
能力開発には、個人レベルと集団レベルの教育訓練があります。
能力開発の種類
- 個人的教育訓練
- 階層別教育訓練
- 新入社員、一般社員、管理者教育、経営者教育
- 職種(職能)別教育訓練
- 技術者教育、セールス担当者教育
- 階層別教育訓練
- 集団的教育訓練
- 問題解決型教育訓練
- ケーススタディ(事例研究)
- 創造性開発型教育訓練
- ブレーンストーミング
- 組織開発型教育訓練
- ロールプレイング
- 問題解決型教育訓練
能力開発の方法には、(1)OJT(実際に実務を行いながら実施される研修)、(2)Off-JT(時間と場所を設け、職場を離れて実施する集合研修)、(3)自己啓発(従業員の自発的な学習のこと。セミナー参加、資格取得など)、があります。
OJTは、技術伝承の手段として有効な手段です。専任の熟練従業員を起用することで、高齢者の活用にも役立ちます。
また、試験対策として、OJT、Off-JTのメリット、デメリットを理解しておきましょう。
OJT(On the Job Training)のメリット・デメリット
- OJTのメリット
- 業務内容に応じて、きめ細かい研修ができる
- 短期間ででき、教育コストが安い
- OJTのデメリット
- 短期志向になりがち
- 研修の効果が指導する上司次第になる
- 体系的な研修は行いにくい
Off-JT(Off the Job Training)のメリット・デメリット
- Off-JTのメリット
- 体系的に知識を習得できる
- 新しい知識を得られる
- Off-JTのデメリット
- 研修コストが高い
- 自社に合った実務能力が身につくのか不明
【過去問】令和4年度 第22問(人事評価)
問題
Q.人事評価における評価基準と評価者に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
360 度評価では、評価者からのフィードバックの客観性を高めるために、従業員が所属している部門内の直属の上司、同僚、部下に範囲を絞って評価者を設定することが望ましい。
【イ】
コンピテンシー評価とは、優れた業績をあげるための知能や性格といった従業員の潜在的な特性に基づいて、従業員の職務成果を評価する手法を指す。
【ウ】
従業員に自らの職務成果を自己評価させることには、従業員と上司との間で職務成果に関する議論が活発になる利点がある。
【エ】
上司の職務成果を直属の部下に評価させる場合は、不正確な評価を行った部下に対して上司が指導を事後的に行えるように、記名式で評価させることが望ましい。
【オ】
組織におけるエンパワーメントの考え方に従えば、従業員の職務成果の評価者を直属の上司に限定し、従業員による自己評価の機会を認めるべきではない。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。360 度評価は、社内だけでなく、取引先なども含むことがあるため、不適切です。
イ:不適切。コンピテンシー評価は、従業員の「潜在的な特性」ではなく、「行動特性」に基づいて評価するため、不適切です。
ウ:適切。選択肢の通りです。
エ:不適切。上司の職務成果を直属の部下に評価させる場合は、記名式ではなく、無記名式のほうが公平な評価になるため、不適切です。
オ:不適切。エンパワーメントの考え方を考慮すると、直属の上司に限定するのではなく、自己申告制度のように、人事考課に被考課者を参画させるべきと考えられるため、不適切です。
【過去問】令和2年度 第23問(人事評価)
問題
Q.次の文章の空欄A~Cに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
採用や選抜、あるいは報酬配分の中で、管理者や人事担当者は、組織に所属する人々を評価しなければならないが、実際の評価の作業では、人間の認知能力に由来したバイアスが度々発生する。
例えば、評価対象の実態について体系的に把握できる自信がない評価者であるほど、人を甘めに評価するという【 A 】 が見られることがある。また、自分の得意な分野を評価することになった評価者であるほど、【 B 】に支配され、その分野について辛めの評価をすることがある。
さらには、実際に評価すべき項目は極めて多岐にわたるため、多くの評価者が、先に全体の評価結果を決めて、それに沿うように個別の項目の評価を行うことがある。このような評価バイアスを【 C 】 と呼ぶ。
〔解答群〕
ア A:寛大化傾向 B:厳格化傾向 C:中心化傾向
イ A:寛大化傾向 B:対比誤差 C:逆算化傾向
ウ A:寛大化傾向 B:対比誤差 C:中心化傾向
エ A:論理的誤差 B:厳格化傾向 C:中心化傾向
オ A:論理的誤差 B:対比誤差 C:逆算化傾向
解答・解説
正解:イ
寛大化傾向とは「評価者の自信欠如から、評価を甘くつけてしまうこと」、対比誤差とは「自分の得意分野/不得意分野かで、評価が変わってしまうこと」、逆算化傾向とは「最終的な評価を先に決め、逆算して各項目の評価を調整すること」を言います。
【過去問】令和2年度 第22問(人事評価)
問題
Q.近年の日本では、従業員や求職者が企業にどれだけ貢献できるかについて、採用、能力開発、処遇などの面で、測定・把握しようという動きがある。そのような中で関心が集まっている概念に「コンピテンシー(competency)」がある。コンピテンシーに関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
実際にあげられた顕著な個人的成果は、因果に関わりなく、コンピテンシーに含まれる。
【イ】
性格やパーソナリティについては、直接的に観察することが難しいため、コンピテンシーには一切含まれない。
【ウ】
組織内外の人々との関係性の中で培われた肯定的な評判によって達成された職務上の高い成果や業績は、コンピテンシーに含まれる。
【エ】
組織の成果に結びつく同僚支援という行動特性は、コンピテンシーに含まれる。
解答・解説
正解:エ
ア:不適切。コンピテンシーとは、高い業務成果を発揮する個人の「行動特性」であり、個人的な成果はコンピテンシーに含まれないため、不適切です。
イ:不適切。性格やパーソナリティはコンピテンシーに含まれるため、不適切です。
ウ:不適切。コンピテンシーとは、高い業務成果を発揮する個人の「行動特性」であり、成果や業績はコンピテンシーに含まれないため、不適切です。
エ:適切。選択肢の通りです。
【過去問】令和4年度 第21問(その他)
問題
Q.仕事へのモチベーションを高めるための職務再設計の方法と、従業員の柔軟な働き方を可能にする勤務形態に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
顧客と直接的な関係性を築けるように従業員の職務を設計することは、従業員が自らの職務の実績を自律的に評価できる機会につながるため、仕事へのモチベーションを高めるのに有効である。
【イ】
職務拡大とは、仕事の流れに従って従業員が担当するタスクの数を量的に増やすことではなく、より大きな責任と権限を従業員に与えることで、仕事へのモチベーションを高めることを指す。
【ウ】
ジョブシェアリングでは、個人的な事情に応じて従業員が勤務時間を自由に設定できる権利を保証するため、フルタイムでの勤務が困難な子育て中の従業員の雇用機会を広げることができる。
【エ】
ジョブローテーションとは、職務の垂直的な拡大を通じた専門職人材の育成を目的として、より高度な技能と責任が求められる職務に従業員を配置転換することである。
【オ】
フレックスタイム制の欠点とは、他部門との関わりが限定され自部門内で完結する職務に従事する従業員に適用することができない点である。
解答・解説
正解:ア
ア:適切。選択肢の通りです。
イ:不適切。「職務拡大」とは、仕事の流れに従って従業員が担当するタスクの数を量的に増やすことです。後半の記述は「職務充実」に関する内容であるため、不適切です。
ウ:不適切。選択肢の記述は、フレックスタイム制に関する内容であるため、不適切です。
エ:不適切。ジョブローテーションは、社内の様々な業務を経験させるもので、水平方向への移動がメインとなるため、不適切です。
オ:不適切。フレックスタイム制は、自部門内で完結する職務に従事する従業員に適用することも可能であるため、不適切です。
今回のおさらい
今回は「人的資源管理(人事評価、報酬、能力開発)」を勉強しました。
人的資源管理は、1次試験ではほとんど出題されないですが、2次試験では必須で活用します。
人的資源管理(人事評価、報酬、能力開発)
- 人事評価には、人間が評価する限り、評価バイアス(ハロー効果、中央化傾向、寛大化傾向、論理的誤差、対比誤差、逆算化傾向)が生じる。考課者訓練、自己申告制度、多面評価(360度評価)などの対策が必要になる。
- 賃金は「定期給与」「賞与」「所定内賃金」「所定外賃金」「基本給」「諸手当」から構成される。ストックオプションは優秀な人材の確保に役立つが、付与されない者のモラール低下などのデメリットもある。
- 能力開発には「OJT(On the Job Training)」「Off-JT(Off the Job Training)」「自己啓発」の3種類がある。OJTは技術伝承の手段としても活用可能である。
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
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