企業経営理論【31】組織活性化(後半)

中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。

今回は「組織活性化(後半)」です。インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。

出題範囲との関係

【経営戦略論】

【組織論】

・経営組織の形態と構造
経営組織の運営
・人的資源管理
・労働関連法規

【マーケティング】

今回の学習キーワード

  • 組織学習、低次学習(シングルループ学習)、高次学習(ダブルループ学習)
  • 組織学習サイクル(役割制約的学習、傍観者的学習、迷信的学習、曖昧さのもとでの学習)
  • SECIモデル(共同化、表出化、連結化、内面化)
  • 人材のダイバーシティ

試験対策

「組織学習の種類」「組織学習サイクル」「SECIモデル」は頻出論点です。過去問を通じて理解を深めておきましょう。

目次

組織活性化の方法

組織が大きな環境変化に直面した場合、環境変化に対応するために、組織を変革して活性化していく必要があります。

組織活性化の主な手法には、以下があります。

組織活性化の主な手法

  • 組織文化の変革
    • トップマネジメントの変革。全社としての取り組み
  • 組織学習(高次学習)
    • ミドルマネジメントの変革。中間層に権限を付与して組織を変える
  • 人材のダイバーシティ
    • ロワーマネジメントの変革。人材レベルでの変革を図る

前回は「組織文化の変革」について勉強しました。今回は「組織学習」と「人材のダイバーシティ」について勉強しましょう。

組織学習

組織学習とは「組織やメンバーが新しい知識を獲得する活動」をいいます。

組織学習の種類

組織学習には、「低次学習(シングルループ学習)」と「高次学習(ダブルループ学習)」があります。

組織活性化には「高次学習(ダブルループ学習)」が必要になります。

組織学習の種類

  • 低次学習(シングルループ学習)
    • 既存のフレームワークの中で、継続的な改善を加えていく学習
    • 一定の価値観のもとでの行動を繰り返すことによって学習を供する漸進的な活動
  • 高次学習(ダブルループ学習)
    • 既存のフレームワークの枠組みを超えて、組織全体を根本的に変革していく学習
    • 高次学習の質は「知識の獲得能力」「組織の吸収能力」に依存する
    • 吸収能力は、既存研究や応用研究への継続投資によって高まる

加えて、高次学習(ダブルループ学習)の具体的な方法も、理解しておきましょう。

高次学習(ダブルループ学習)の具体的な方法

  • ミドル層に権限移譲する
  • 様々な視点を持った参加者を活用する(人材のダイバーシティ、オープンイノベーション)
  • 過程主義(プロセス重視)から成果主義(結果重視)への評価体系を変更する
  • 成功・失敗経験のデータベース化と共有を行う

組織学習サイクル

組織学習は、「組織学習サイクル」と呼ばれる個人の学習を通じて行われます。

「個人の信念・知識→個人の行動→組織の行動→環境の変化→個人の信念・知識→…」の流れで個人の学習が行われますが、このサイクルを断絶する(A)~(D)が発生することで、組織学習が阻害されることになります(=組織学習の失敗)。

組織学習サイクルの断絶

  • 【A】役割制約的学習
    • 与えられた役割や手続きの制約により、行動に移せない状態
  • 【B】傍観者的学習
    • 個人の学習成果が組織の行動に活かされず、個人が傍観者の状態
  • 【C】迷信的学習
    • 組織の行動とそれが環境に与える因果関係がわかりにくい状態
  • 【D】曖昧さのもとでの学習
    • 環境の変化が起きても、個人には何が生じたか解釈できない状態

ナレッジマネジメント、SECIモデル

ナレッジマネジメントとは「ITなどを活用して、ナレッジを組織に共有・蓄積し、企業の競争力を向上させる経営手法」を言います。

組織にナレッジを共有・蓄積・発展させていく方法に「SECIモデル」があります。

SECI(セキ)モデルとは「野中都次郎らが提唱した、知識や経験を共有し、新たな発見を得るための枠組み」をいいます。

SECIモデルの4ステップ

  1. 共同化(Socialization) : 個人の持つ暗黙知を共同体験などで暗黙知を共有する
  2. 表出化(Externalization): 暗黙知を形式知に転換する
  3. 連結化(Combination): 洗い出された形式知を結合して、新たな形式知を創出する
  4. 内面化(Internalization): 形式知を個人が実践することで、暗黙知として体得する

なお、経営者の主観的な思い、当面必要のない仕事の共有なども、「共同化」として知識創造に貢献する点を覚えておきましょう。

人材のダイバーシティ

多様な価値観や考え方を持った人材が組織に集まると、新たな顧客ニーズに対して迅速な対応が可能となり、ビジネス機会が拡大します。

人材のダイバーシティとは「多様な人材の活用を意味します。

具体的には、「外部人材の採用」と「内部人材の活用」の両面を意識することが大事です。

人材のダイバーシティ

  • 外部人材の採用
    • 既存の採用方法とは異なる人材を採用する
  • 内部人材の活用
    • 既存の人事制度を見直す (育児・介護休暇制度、アファーマティブ・アクションの導入など)

アファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)とは、マイノリティの置かれている状況を改善しようという取り組みです。

女性比率が少ない部署で、女性に絞った採用活動を行うなどがあります。

【過去問】令和6年度 第22問(組織学習)

問題

Q.組織学習に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
「有能さの罠(competency trap)」とは、これまでの学習の結果として高い能力を構築し成果を上げているために、学習をやめてしまうことである。

【イ】
高次学習とは組織の上位階層のみで生じる行動レベルの学習であるのに対して、低次学習は組織の下位階層のみで生じる行動レベルでの学習である。

【ウ】
組織学習とは、組織ルーティンの変化の中で組織成果に正の貢献をもたらすもののみを指す。

【エ】
組織メンバーが環境の変化に対応した新しい知識を獲得しても、組織によって規定された役割が制約となって、組織としての学習が進まないことがある。

【オ】
ダブルループ学習とは行動とその結果を振り返り行動を修正することを何度も繰り返すものであるのに対して、シングルループ学習とは行動を一度だけしか修正しないものである。

解答・解説

正解:エ

ア:不適切。有能さの罠(competency trap)とは、既にある程度の水準を満たしており、変革の必要性を感じないことであるため、不適切です。

イ:不適切。高次学習は組織の上位階層で生じやすいですが、下位階層でも必要になるため、不適切です。

ウ:不適切。組織学習には、失敗などの経験も重要な学習になるため、不適切です。

エ:適切。組織学習サイクルの「役割制約的学習」の説明であるため、適切です。

オ:不適切。ダブルループ学習(高次学習)とは、組織全体を根本的に変革していく学習、シングルループ学習(低次学習)とは、継続的な改善を加えていく学習であり、回数を示すものではないため、不適切です。

【過去問】平成30年度 第18問(組織学習)

問題

Q.変化が激しい環境に適応する組織にとって、組織学習を促進していくことは不可欠である。組織学習に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
シングルループ学習とは、ある目的とそれを達成するための行為の因果関係についての知識を、一度見直すことを意味する。

【イ】
組織内の人々は役割が規定され、その成果によって評価されるために、環境の変化に対応した新しい知識を獲得しても、それを直ちに個人や組織の行動の変化に反映できないことがある。

【ウ】
高い成果をもたらした組織のルーティンは、繰り返し使用することによって、より高い成果を生み出すことにつながるため、慣性の高い組織の方が長期適応する能力は高くなる。

【エ】
低次学習よりも高次学習を促進するためには、明確なコンテキストのもとで、ある行為の結果に関する大量の情報を処理し、その行為の有効性を評価する必要がある。

【オ】
部門間を緩やかな結合関係にすることによって、傍観者的学習の可能性が低下するため、組織は全体として環境の変化に適応しやすくなる。

解答・解説

正解:イ

ア:不適切。シングルループ学習とは、継続的な改善を加えていく学習であり、一度見直すことはダブルループ学習にあたるため、不適切です。

イ:適切。選択肢の通りです。組織学習サイクルの「役割制約的学習」に該当する行動です。

ウ:不適切。短期的には、慣性の高い組織のほうが成果が出やすいですが、環境変化が生じるときは逆機能になるため、不適切です。

エ:不適切。高次学習の推進には、 既存のフレームワークの枠組みを超える必要があり、不明確なコンテキストが必要になるため、不適切です。

オ:不適切。部門間を緩やかな結合関係にすることで、意思疎通の頻度が低下し、傍観者的学習の可能性が高くなるため、不適切です。

【過去問】令和元年度 第14問(組織学習)

問題

Q.組織学習は、一般に低次学習と高次学習に分けて考えることができる。組織学習に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
D.マグレガーのいうY理論に基づく管理手法を採用すると、低次学習が促進されるため、組織の業績は悪化する可能性が高まる。

【イ】
新たに組織に参加した組織メンバーは、組織の周縁にいるために、社会化のプロセスを通じて積極的に高次学習をさせる必要がある。

【ウ】
高次学習とは組織の上位階層で行われている学習であり、低次学習とは組織の下位階層で行われている学習である。

【エ】
組織の行動とそれが環境に与える効果の因果関係が分かりにくい場合、迷信的学習といわれる低次学習が起こりやすい。

【オ】
低次学習とは組織の成果にとって悪い影響を与える学習であり、高次学習とはより高い成果をあげるために不可欠であるため、組織メンバーに高次学習を意識させることが重要である。

解答・解説

正解:エ

ア:不適切。Y理論は、人は仕事が嫌いではなく、自分が設定した目的のためには自ら進んで努力するという人間観でした。X理論よりもY理論のほうが高次学習を促進するため、不適切です。

イ:不適切。新たに組織に参加した組織メンバーには、既存業務の学習である低次学習が必要になるため、不適切です。

ウ:不適切。高次学習と低次学習は、既存フレームワークの内と外に関わる学習であるため、不適切です。

エ:適切。迷信的学習とは、組織の行動とそれが環境に与える因果関係がわかりにくい状態であるため、適切です。

オ:不適切。低次学習とは組織の成果にとって悪い影響を与える学習ではないため、不適切です。

【過去問】平成29年度 第20問(知識創造理論)

問題

Q.組織的知識創造プロセスとして、野中郁次郎が提唱する SECI モデルに関する記述として、最も適切なものはどれか

【ア】 
SECI モデルにおける共同化ないし社会化(Socialization)とは、新入社員の研修活動を通じて組織文化に適応させることを意味し、組織メンバーとしての自覚を促すことによって社内での行動パターンを身につけさせることを促す。

【イ】
SECI モデルにおける表出化(Externalization)とは、新製品のイメージなどが具体的な言葉によって新製品コンセプトとして表現されていくような、社会化を通じて獲得された暗黙知を形式知に転換するプロセスを意味する。

【ウ】
SECI モデルにおける内面化(Internalization)とは、実践を繰り返すことを通じて、内面化された知識を他者にも伝えていくことを意味する。

【エ】
SECI モデルにおける連結化(Combination)とは、形式知と暗黙知が組み合わされることを通じて、すでに言語で表現されている既存の製品コンセプトが、新製品コンセプトへ転換されていくことを意味する。

解答・解説

正解:イ

ア:不適切。共同化とは「個人の持つ暗黙知を共同体験などで暗黙知を共有する」ステップです。選択肢の内容は内面化に関する表記であるため、不適切です。

イ:適切。表出化とは「暗黙知を形式知に転換する」ステップであるため、適切です。

ウ:不適切。「内面化された知識を他者にも伝えていくこと」は共同化であるため、不適切です。

エ:不適切。連結化とは「洗い出された形式知を結合して、新たな形式知を創出する」ことであるため、不適切です。

【過去問】令和4年度 第10問(知識創造理論)

問題

Q.野中郁次郎が提唱した知識創造理論に基づいて、組織的な知識創造を阻害したり促進したりする要因に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
経営者の主観的な思いは、組織的な知識創造を阻害する。

【イ】
組織構成員に自律性を与えると、全体の統制が取れなくなるので、組織的な知識創造は阻害される。

【ウ】
組織構成員に当面必要のない仕事上の情報を重複して共有させると、コミュニケーションに混乱が生じるので、組織的な知識創造は阻害される。

【エ】
組織構成員に複数の役割を経験させ、多面的に物事を考えさせるようにすると、組織的な知識創造は促進される。

【オ】
組織構成員間で暗黙知が共有できるまで、外部組織とはできるだけ接触させない方が、組織的な知識創造は促進される。

解答・解説

正解:エ

ア:不適切。経営者の主観的な思いは「暗黙知」であり、SECIモデルの循環の源であるため、不適切です。

イ:不適切。組織構成員の自律性が知識創造を妨げるとは考えにくいため、不適切です。

ウ:不適切。当面必要のない仕事上の情報を重複して共有させることは、組織的な知識創造を促進すると考えられるため、不適切です。

エ:適切。共同化から表出化のプロセスに該当すると考えられるため、適切です。

オ:不適切。外部組織からの多様な情報に接したほうが良いと考えられるため、不適切です。

【過去問】令和5年度 第11問(知識創造理論)

問題

Q.野中郁次郎が提唱した組織的知識創造理論における中核的な概念の 1 つである暗黙知に関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
ある時代や分野において支配的規範となる物の見方や捉え方であるパラダイムは、手法的技能としての暗黙知である。

【イ】
暗黙知は言語化が困難な主観的知識を意味し、そのまま組織的に共有させることが容易である。

【ウ】
経験は意識的な分析や言語化によっても促進されるため、暗黙知が形式知化されると新たな暗黙知を醸成する。

【エ】
知識創造の過程は暗黙知と形式知の相互変換であり、集団における暗黙知の共有や一致が知識創造の唯一の出発点である。

【オ】
豊かな暗黙知の醸成には、経験を積み重ねることが重要で、形式知化を行わないことが推奨される。

解答・解説

正解:ウ

ア:不適切。パラダイムとは物の見方や捉え方のことを指すため、手法的技能である暗黙知とは関係がないため、不適切です。

イ:不適切。暗黙知は言語化が困難な主観的知識であるため、そのままでは組織的に共有させることができないため、不適切です。

ウ:適切。内面化の説明であるため、適切です。

エ:不適切。集団における暗黙知の共有や一致が知識創造の「唯一の出発点」ではなく、サイクルを形成するものであるため、不適切です

オ:不適切。暗黙知を形式知化して、組織に共有することが大事であるため、不適切です。

【過去問】令和5年度 第20問(組織学習サイクル)

問題

Q.J. G. マーチと J. P. オルセンが示した組織学習サイクル・モデルにおける不完全な学習サイクルに関する記述として、最も適切なものはどれか。

【ア】 
「曖昧さのもとでの学習」とは、組織の行動がもたらした環境の変化を適切に解釈できず、個人の信念が修正されないことを指す。

【イ】
「傍観者的学習」とは、個人が、環境の変化について傍かたわらから観察しているかのように、自らの行動を変化させないことを指す。

【ウ】
「迷信的学習」とは、個人が自ら確信している迷信に従って、自身の行動を変化させ、さらに組織の行動の変化も導こうとすることを指す。

【エ】
「役割制約的学習」とは、環境の変化によって自らの信念が変化した個人がその行動を変化させるものの、そうした変化が自らの役割の範囲内のみにとどまっていることを指す。

【オ】
不完全な学習サイクルとは、「環境の変化→個人の行動→組織の行動→個人の信念」という連結サイクルのいずれかが切断されていることを指す。

解答・解説

正解:ア

ア:適切。選択肢の通りです。

イ:不適切。傍観者的学習とは「個人の学習成果が組織の行動に活かされず、個人が傍観者の状態」であるため、不適切です。

ウ:不適切。迷信的学習とは「組織の行動とそれが環境に与える因果関係がわかりにくい状態」であるため、不適切です。

エ:不適切。役割制約的学習とは「与えられた役割や手続きの制約により、行動に移せない状態」であるため、不適切です。

オ:不適切。「環境の変化→個人の信念→個人の行動→組織の行動」であるため、不適切です。

今回のおさらい

今回は「組織活性化(後半)」を勉強しました。

組織学習の種類、SECIモデルは頻出論点であるため、ポイントを理解しておきましょう。

組織活性化(後半)

  1. 組織が大きな環境変化に直面した場合、組織を変革して活性化していく必要がある。組織活性化の手法には、(1)組織文化の変革、(2)組織学習、(3)人材のダイバーシティがある。
  2. 組織学習には、継続的な改善である「低次学習(シングルループ学習)」、既存のフレームの枠組みを超える「高次学習(ダブルループ学習)」がある。「SECIモデル」などでナレッジを共有していく一方で、「組織学習サイクル」の各段階の失敗を乗り越えていく必要がある。
  3. 人材のダイバーシティとは「多様な人材の活用」のことであり、外部人材の採用と内部人材の活用の両面を意識することが大事である。

中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。

できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。

この記事に満足頂いた方は、ぜひTwitterのフォローをお願いします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士(令和2年度合格)

令和元年度、1次試験合格(通信講座)
その年の2次試験はあえなく不合格。
翌年は3ヶ月の完全独学で2次試験に合格。

目次