1回「20分」で、中小企業診断士1次試験合格を支援する「合格ドリル」です。
今回は「事業の経済性分析、デファクトスタンダード、先発優位・後発優位」です。 インプットしたら、過去問にチャンレジしましょう。
出題範囲との関係
【経営戦略論】
・経営計画と経営管理
・企業戦略
・成長戦略
・経営資源戦略
・競争戦略
・技術経営(MOT)
・国際経営(グローバル戦略)
・企業の社会的責任(CSR)
・その他経営戦略論に関する事項
【組織論】
【マーケティング】
今回の学習キーワード
- 規模の経済、経験曲線効果
- 範囲の経済、シナジー効果(相乗効果)、コンプリメント効果(相補効果)
- 速度の経済(スピードの経済)、連結の経済(ネットワークの経済)
- ネットワーク外部性、デファクトスタンダード、デジュリスタンダード
- 先発優位、後発優位
- リストラクチャリング、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)
事業の経済性分析
経営戦略において、規模の経済や経験曲線効果などのキーワードが出てきましたが、コスト面から戦略を分析する考え方を「事業の経済性分析」といいます。
以下の図でキーワード間の関連を理解しておきましょう。
規模の経済(スケールメリット)
規模の経済とは「ある一時点の生産量が増えるほど、製品の1単位当たりの費用が低下すること」を言います。
ポイントは「1時点」「単位当たり固定費の低下」です。
経験曲線効果
経験曲線効果とは「累積生産量が増えるほど、製品の1単位当たりの費用が低下すること」を言います。累積生産量が2倍になると、単位当たり費用は20~30%低下すると言われます。
ポイントは「一定期間」「単位当たり変動費の低下」「習熟・改善」です。PPMでも勉強しましたが、経験を積むことによる習熟効果が要因になります。
範囲の経済(スコープメリット)
範囲の経済とは「企業が複数の事業を同時に営むことによって、それぞれの事業を独立で行っているときよりも費用が低下すること」を言います。
経営資源の多重利用、未利用資源の活用などがその背景にあります。多角化の動機にもなります。
シナジー効果(相乗効果)
シナジー効果とは「経営資源の多重利用により、複数の事業を同時に営むほうが独立で行うよりも効果が大きいこと」を言います。範囲の経済とほぼ同義で使われます。
「1+1=3以上」と覚えておきましょう。
なお、シナジーの種類には以下があります。
シナジーの種類
- マーケティングシナジー
- 販売力・チャネル、ブランドの活用
- 操業シナジー
- 複数の生産、部品や人員の共通利用
- 投資シナジー
- 複数事業の投資
- マネジメントシナジー
- 経営ノウハウを活かした複数事業の展開
- 技術シナジー
- 技術面の共通利用・活用
コンプリメント効果(相補効果)
コンプリメント効果とは「遊休設備を利用して、別の製品を製造することで生まれる効果」を言います。
代表例として、スキー場を夏場にレジャー施設として利用することで売上を確保することがあります。
「1+1=2」と覚えておきましょう。
速度の経済(スピードの経済)
速度の経済とは「製品の開発・生産・販売の回転速度を上げることによって得られる経済的な効果」を言います。
時間的な優位性を構築することを「タイムベース競争」といいます。合わせて覚えておきましょう。
また、速度の経済のメリットには以下があります。
速度の経済(スピードの経済)のメリット
- コスト削減(生産リードタイムの短縮による原材料、在庫のコスト減少)
- 機会損失の低減(ニーズに迅速に対応できるので)
- 売れ残りリスクの軽減
- 利益率の向上(上記3つの結果です)
連結の経済(ネットワークの経済)
連結の経済とは「複数の企業がネットワークとして結びつくことにより、経済的な効果が発生すること」を言います。戦略的提携などが代表例になります。
連結の経済に関連して「ネットワーク外部性」「デファクトスタンダード」も理解しておきましょう。
ネットワーク外部性
ネットワーク外部性とは「ネットワークに参加する利用者が増えるほど、利用者の価値が高まること」をいいます。
身近な例として、数人の友達だけが使うSNSよりも、すべての友達が利用するSNSの方が便利であるとイメージしておきましょう。
なお、ネットワーク外部性には、利用者が増えるほど、(1)利用者の価値が高まる「直接的ネットワーク外部性」、(2)補完財が多様化して便利になっていく「間接的ネットワーク外部性」があります。
デファクトスタンダード
デファクトスタンダードとは「事実上の業界標準」のことです。Microsoftの「Windows」が代表例です。
一方、公的機関が定める基準を「デジュリスタンダード」といいます。
ネットワークの外部性とデファクトスタンダードは密接に関連しています。
まず、利用者の人数が増え始めて「クリティカル・マス(商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点)」に達すると、ネットワーク外部性が働き、その結果、デファクトスタンダードになっていくという流れです。
自社だけでデファクトスタンダードを構築できることが理想ですが、オープンアーキテクチャ(自社の技術や設計情報を公開して、参加企業を増やす)やOEM(自社ブランドの生産を他社に生産委託)などの協調的行動を取ることも重要です。
先発優位・後発優位
先発の優位性とは「他社よりも早く市場参入することで得られる優位性」をいいます。
一方、後発の優位性とは「他社よりも遅く市場参入することで得られる優位性」をいいます。
ここでは、それぞれのメリット・デメリットを理解しておくことが大事です。
先発の優位性のメリット・デメリットは以下です。
先発の優位性のメリット
- 顧客の中に参入障壁を形成することができる
- 価格をあまり気にしないイノベーターを取り込むことができる
- 経験曲線効果を得られる
- 希少資源を利用できる
先発の優位性のデメリット
- 製品の認知向上のための広告宣伝費がかかる
- 技術と研究開発のための投資が必要になる
- 製品が市場に受け入れられるかリスクがある
一方、後発の優位性のメリット・デメリットは以下です。
後発の優位性のメリット
- 需要の不確実性を見極めてから参入できる
- 市場が形成されているので、広告宣伝費や研究開発の費用が少なくて済む
先発の優位性のデメリット
- 先発企業が参入障壁を形成していると参入が大変になる
- 経験曲線効果が働かないため、一定の生産量になるまではコスト面で不利になる
リストラクチャリング(事業の再構築)
企業は経営環境の変化や技術革新などに対応していく必要があります。
リストラクチャリングとは「事業の再構築のことで、不採算事業を切り捨てて、成長分野に経営資源を投入すること」を言います。
一般的に言われる人員削減よりも広い概念なので注意しましょう。具体的には、固定資産の売却やアウトソーシングなどを行っていきます。
リストラクチャリングと関連して、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)も理解しておきましょう。
BPRとは「業務プロセスの抜本的再設計」です。
ビジネスのプロセスを根本的に再設計し、経営効率を高める全社横断的な取り組みをいいます。
ビジネスプロセスを見直したり、情報システムを活用することが多いです。ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング」と呼ばれる統合基幹業務システム、基幹システムを導入するケースもあります。
【過去問】令和元年度 第7問(規模の経済、経験曲線効果)
問題
Q.経験効果や規模の経済に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
経験効果に基づくコスト優位を享受するためには、競合企業を上回る市場シェアを継続的に獲得することが、有効な手段となり得る。
【イ】
経験効果は、ある一時点での規模の大きさから生じるコスト優位として定義されることから、経験効果が生じる基本的なメカニズムは、規模の経済と同じである。
【ウ】
生産工程を保有しないサービス業では、経験効果は競争優位の源泉にならない。
【エ】
中小企業では、企業規模が小さいことから、規模の経済に基づく競争優位を求めることはできない。
【オ】
同一企業が複数の事業を展開することから生じる「シナジー効果」は、規模の経済を構成する中心的な要素の 1 つである。
解答・解説
正解:ア
ア:適切。市場シェアが高いと、経験曲線効果が発揮されるため、適切です。
イ:不適切。ある一時点での規模の大きさから生じるコスト優位は、規模の経済であるため、不適切です。
ウ:不適切。経験曲線効果は、習熟度が影響し、サービス業でも発揮されるため、不適切です。
エ: 不適切。中小企業でも規模の経済によるコスト低下を求める可能性があり、「求めることはできない」と断言できないため、不適切です。
オ:不適切。シナジー効果は、範囲の経済を構成する要素であるため、不適切です。
【過去問】令和2年度 第4問(事業経済性)
問題
Q.企業の競争優位に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
PIMS(Profit Impact of Market Strategy)プログラムでは、市場シェアの追求と知覚される相対的な品質の追求は両立できないことが、明らかにされている。
【イ】
経験効果における習熟度は業界の特性に関わらず一定であるために、累積生産量の増加に伴う単位当たり費用の変化は、いかなる業界においても同様の習熟度を係数とする式で示される。
【ウ】
経験効果を利用したコスト・リーダーシップを追求する場合には、競合企業よりも多くの累積生産量を達成するために、できるだけ早い時点で参入することが有効な方策となる。
【エ】
製品差別化が有効である場合には、価格が上昇しても、競合する製品への乗り換えが生じにくいことから、需要の交差弾力性は高い。
【オ】
範囲の経済は、多角化を進める要因であることから、特定の事業においてコスト・リーダーシップを追求する上では、影響をもたらさない。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。PIMSはハーバード・ビジネス・スクールとGEによる経営・事業の戦略と業績の関係に関する調査研究です。「市場シェアの追求と知覚される相対的な品質の追求は両立できない」とは述べていないため、不適切です。この選択肢が不明でも、他の選択肢がわかれば対応できます。
イ:不適切。経験効果における習熟度は、業界特性に関わらず一定とは言い切れないため、不適切です。
ウ:適切。選択肢の通りであるため、適切です。
エ:不適切。製品が差別化されている場合は、需要の交差弾力性は低いため、不適切です。
オ:不適切。前半は正しいですが、特定事業においてコストリーダーシップを追求する要素になるため、不適切です。
【過去問】令和2年度 第13問(デファクトスタンダード)
問題
Q.デファクト・スタンダードやネットワーク外部性に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
デファクト・スタンダードの確立には、ISO のような国際的な標準化機関が重要な役割を果たすことから、これらの機関での調整や協議を進めることが、デファクト・スタンダードの獲得に向けた中心的な方策となる。
【イ】
デファクト・スタンダードは、パーソナルコンピュータやスマートフォンのOS(基本ソフト)のようなソフトウェアにおいて重要な役割を果たすものであり、情報技術が関わらない領域では生じない。
【ウ】
デファクト・スタンダードは製品市場における顧客の選択を通じて確立するために、競合する製品や規格の中で、基本性能が最も高いものが、デファクト・スタンダードとしての地位を獲得する。
【エ】
当該製品のユーザー数の増加に伴って、当該製品において補完財の多様性が増大したり価格が低下したりすることで得られる便益は、ネットワーク外部性の直接的効果と呼ばれ、間接的効果と区分される。
【オ】
ネットワーク外部性を利用して競争優位を獲得するためには、ユーザー数を競合する製品や規格よりも早期に増やすことが、有効な方策となる。
解答・解説
正解:オ
ア:不適切。国際的な標準化機関が定めるのは、デジュリスタンダードであるため、不適切です。
イ:不適切。デファクトスタンダードは、情報技術が関わらない領域でも生じるため、不適切です。
ウ:不適切。基本性能の高さに関係なく、多く利用されることがデファクトスタンダードになるため、不適切です。
エ: 不適切。補完財が多様化し、便利になるのは間接的ネットワーク外部性(間接的効果)であるため、不適切です。
オ:適切:選択肢の通りです。
【過去問】平成27年度 第6問(デファクトスタンダード)
問題
Q.デファクト・スタンダードに関する記述として、最も不適切なものはどれか。
【ア】
自社規格がデファクト・スタンダードとなるためには、競合企業に対して規格をオープンにし、協定を締結することが必要となる。
【イ】
自社規格がデファクト・スタンダードとなるためには、公的な標準化機関の認定を必要としない。
【ウ】
デファクト・スタンダードとなる規格が登場することによって、多くの企業が同一規格の製品を販売し、機能面での差別化競争や安さを売りにした低価格競争が激化することがある。
【エ】
デファクト・スタンダードとなる規格の登場は、市場の導入期から成長期への移行を加速させる。
解答・解説
正解:ア
ア:不適切。競合企業に対して、規格をオープンにすることはあります(=オープンアーキテクチャ)が、協定の締結は必須ではないため、不適切です。
イ:適切。記述の通りです。公的な標準化機関が定めた規格がデジュリスタンダードです。
ウ:適切。規格内における差別化や低価格競争が激化しやすくなるため、適切です。
エ:適切。規格が確定していないと、消費者はどれを買うべきか悩むため購入を躊躇することがあります。規格の統一は成長期への移行を加速させるため、適切です。
【過去問】令和5年度 第6問(先行者優位)
問題
Q.企業の先行者優位性に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
技術が特許によって保護される状況では、技術の模倣や売買が不可能であるため、先行者となる企業の優位性が維持されやすい。
【イ】
顧客側のスイッチングコストが高い状況では、先行者となる企業の優位性が維持されやすい。
【ウ】
顧客の嗜好の変化や新しい顧客ニーズが次々に生まれる状況では、先行者となる企業の優位性が維持されやすい。
【エ】
先行者の投資に対して後発者が大きく「ただ乗り」できる状況では、先行者となる企業の優位性が維持されやすい。
【オ】
非連続的な技術革新が頻繁に起こる状況では、先行者となる企業の優位性が維持されやすい。
解答・解説
正解:イ
ア:不適切。特許権は売買することができるため、不適切です。
イ:適切。記述の通りです。
ウ:不適切。顧客の先発優位に関する説明であるため、適切です。
エ:不適切。参入障壁を築いても、ニッチ市場に入り込むとは限らないため、不適切です。
オ:不適切。競合品よりも多くの量を生産することで、単位あたりコストが低下するため、不適切です。
【過去問】平成24年度 第4問(タイムベース競争)
問題
Q.いかに早く競争力のある製品を開発し、市場に供給するか、という時間をめぐる競争はタイムベース競争と呼ばれている。そのような競争をめぐる問題点や考慮すべき点に関する記述として、最も適切なものはどれか。
【ア】
商品購入時にユーザー登録をしてもらって利用特典を与える販売方式は、バージョンアップした自社商品への乗り換えを難しくするので、その企業の商品の普及スピードを鈍化させることになる。
【イ】
生産リードタイムの短縮によって、原材料の在庫の回転率があがるが、生産コストに変化はなく、収益も変わらない。
【ウ】
先発して市場に参入すれば、有利な立地や優秀な人材を先取りできるばかりではなく、市場動向に素早く対応して、売り上げが増大する可能性が高くなる。
【エ】
他社に先駆けて特許等で参入障壁を築いて防衛的地位を固めると、ニッチ市場に入り込んでしまい、市場の変化に取り残されてしまうことになる。
【オ】
他社の競合品よりも多くの量の自社製品をすばやく生産することを続けると、単位あたりコストが増大し、市場競争で劣位に立たされることになる。
解答・解説
正解:ウ
ア:不適切。商品購入時にユーザー登録してもらうことは、バージョンアップへの乗り換えを簡単にするため、不適切です。
イ:不適切。在庫回転率があがることで、在庫保管費用が下がるため、不適切です。
ウ:適切。先発優位に関する説明であるため、適切です。
エ:不適切。参入障壁を築いても、ニッチ市場に入り込むとは限らないため、不適切です。
オ:不適切。競合品よりも多くの量を生産することで、単位あたりコストが低下するため、不適切です。
今日のおさらい
今回は「事業の経済性分析、デファクトスタンダード、先発優位・後発優位」を勉強しました。
それぞれの特徴を入れ替える設問が出題されやすいので気をつけましょう。
事業の経済性分析、デファクトスタンダード、先発優位・後発優位
- コスト面から戦略を分析する考え方を「事業の経済性分析」という。単一事業では「規模の経済」「経験曲線効果」、複数事業では「範囲の経済」「シナジー効果」「コンプリメント効果」がある
- ネットワーク外部性とは、ネットワークに参加する利用者が増えるほど、利用者の価値が高まること。利用者数が増えていくと、デファクトスタンダード(事実上の業界標準)につながっていく
- 先発優位のメリットには「参入障壁の形成」「イノベーターの囲い込み」「経験曲線効果」、後発優位のメリットには「需要の不確実性を見極めて参入できる」「広告宣伝費などの費用が少なくて済む」ことがある
中小企業診断士は難関資格ですが、正しく勉強すれば、1~2年で合格できます。
できるビジネスマンへの第一歩として、中小企業診断士の勉強を考えてみてください。
この記事に満足頂いた方は、ぜひTwitterのフォローをお願いします。
コメント